蔵の中 (1981年)

作品総合評価
少年の出番 ほぼ100%(完全に主役)
寸評 横溝正史の耽美的な世界。妖しい少年。
【少年映画でない理由】年齢オーバーに見えてしまう。
映画情報など 1981年公開。DVD発売中。
写真は山中康仁君。


1976年の『犬神家の一族』の大ヒットで、横溝正史+角川映画は、日本映画に新しい潮流を作ったと言われています。本作もその潮流に乗った作品のはずなのですが、私は全く知りませんでした。マスコミでも大きな話題になったという記憶もありません。

ただニューハーフの松原留美子さんが妖艶な美女を演じた、この話は微かに記憶に残っています。それが本作だと知ったのはDVDを見てから。でも本当の主役は山中康仁君。1966年生まれですので、本作出演時は14、5歳。外見は20歳前後にみえるのが惜しいところ。

蔵の中で暮す病弱な姉。優しい弟。いつしか禁断の関係に...

京都の出版社。編集者(中尾彬)に笛二(山中康仁)という少年が「蔵の中」という小説の原稿を持ち込んだ。編集者は気乗りしないまま読み始める。笛二の姉は病弱で、感染を恐れて蔵の中で生活している。笛二は熱心に姉の世話をしている。ある日、蔵の窓から向かいの家を覗いていると、男女が不倫。男は編集者だった。

笛二と姉はその光景をみて自分たちも禁断の行為に走った。別の日、編集者が女を殺す場面を見た。それをみた姉は「私も生きていたくない。殺して」と笛二に哀願する。その意に負けた笛ニは姉の首を締めた...以上が小説の原稿。編集者は笛二の家を訪れる。俺は殺人なんかしていないぞ。蔵の中に入った編集者が見たものは...


病弱の姉と弟が禁断の愛に陥ってしまう。これだけならよくある話で、横溝正史原作としては物足りません。当然裏にはカラクリがあります。以下でネタバレしますので、お嫌な方はここまでにして下さい。

実は笛二に姉なんていないのです。病弱のため蔵の中で暮らしていたのは笛二ひとり。不自由な生活の中、望遠鏡で外を眺めているうちの男女の不倫を見つけたのは事実。男女の交わりをみているうちに15歳の少年ですから、欲求が湧いてきたのでしょう。

でも恋人なんて出来ない病弱の身。自分の分身として姉を作り出し、姉と会話をすることで寂しさを紛らわせているうちに、性の欲求まで満たします。しかし笛二には常識もあり、これはいけない事だと悩んだ末、こんな人生なら早く終わってしまった方がいいと考えたと思うのです。

編集者が殺人を犯す小説を書いて渡し、編集者が怒って笛二の家にやってきた時、笛二は全裸になって編集者を迎えます。この時の笛二の人格は姉なのか少年なのか。残念ながら編集者に男色の気は無かったようで、全裸の少年をみて「きみ、大人をからかうのはやめなさい」

次の瞬間、少年は消えてしまいます。このシーンの意味はよく判りません。後日、編集者が再度訪れた時、家にいた使用人のばあやに真相を聞きました。坊ちゃんに姉なんかいません。蔵の中におられるのは坊ちゃんだけ。編集者が蔵の中に入っていくと、女装した少年はカンザシを首に刺して自殺...

笛二の心には女性の人格があり、女性として愛されたい欲望が強かったのでしょう。美人の姉は自分自身。これで姉役にニューハーフの方を起用した事に納得がいきました。そう思うと山中康仁君の演技力は本当に大したもの。もっと評価されていいと思うのですが。


京都の出版社に少年が原稿を持ち込んだ。
(演じる山中君も中尾さんも京都弁は無視で標準語)
ばあやと話す笛二。姉の世話は僕がする。
(これは小説の中の話でした)


蔵の2階の窓から望遠鏡で隣家を覗く。
(趣味悪いなあ...ノゾキなんて)
病弱な姉は人生を儚んで、弟に一生のお願い。
わたしを殺して。お願い。


原稿を読んだ編集者が笛二の家にやってきた。少年は全裸で不敵な笑顔...


※後記
山中康仁さん。黒澤明監督『影武者』では織田信長の小姓である森蘭丸役に抜擢され、出番は少ないもののスタッフに可愛がられている様子を、映画紹介のテレビ番組でみました。その後、テレビドラマ『小さな追跡者』では主役少年など、活躍が期待されたのですが、俳優は早くに卒業されたようです。





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