国宝 (2025年)
少年の出番 |
主役二人の少年時代。約30分ほど。 |
寸評 |
歌舞伎の道に取り憑かれた二人。もう何も言うことはありません。 |
映画情報など |
2025年公開。ディスク等発売は未定。 下の写真は黒川想矢君(左)と越山敬達君(右)。 |
2025年上半期の大ヒット作。歌舞伎という地味かもしれないテーマなのに社会現象とまで言われるほどの人気ぶり。ネットでは様々な方々が、原作と合わせて掘り下げた素晴らしい感想やレビューを書かれています。ですので私ごときに書くことはあまりありません。
キクオとシュンスケは同じ高校に通った。ライバルだが親友になった。
長崎の任侠の家に生まれたキクオ(黒川想矢)。抗争で父を失い、天涯孤独になり、父と親交のあった歌舞伎の名門、花井半二郎(渡辺謙)に弟子入り。花井にはキクオと同じ年の息子のシュンスケ(越山敬達)がいた。そして二人は一生のライバルとなっていく。
成人したキクオ(吉沢亮)とシュンスケ(横浜流星)は一緒に初舞台を踏む。順風満帆に見えたが、半二郎の怪我の代役を息子シュンスケではなくキクオを指名した事から波乱が始まる。シュンスケはどこかへ出奔。やがてキクオは花井家を襲名するが、半二郎が急死。後ろ盾を失ったキクオも歌舞伎界から追放同然。
その一方、シュンスケは歌舞伎に復帰して人気も回復。どさ回りまで落ちぶれたキクオも歌舞伎界の重鎮の助けで復帰。再び二人のコンビが復活。しかし今度はシュンスケが病で足を切断。どこまで二人に嵐が吹き荒れるのか...
まあジェットコースターのような二人の人生。二人はシーソーのように上がったら下がる。決して同時には上がらないのがシーソー。最後に上がったのは...
キクオの少年時代を演じた黒川想矢君。彼の演技も大絶賛を浴びました。どんな映画やお笑い半分のテレビドラマでも驚くほど熱心に役に取り組む姿勢。それが本作では遺憾無く発揮されたのだと思います。
シュンスケの少年時代を演じた越山敬達君。天性の明るいキャラクターはシュンスケにぴったり。ただ黒川想矢君が頻繁に監督のもとに出かけて質問している姿に、かなり焦ったような事がパンフレットのインタビューに書かれていました。
黒川君はまだ長崎にいた頃に素人芝居ですが「関の扉」、越山君は父と一緒に「連獅子」を舞います。しかし少年時代の二人が一緒に舞台に立つ事がなかったのが残念。黒川・越山コンビの「二人藤娘」を見たかった。でもこれは江戸時代には女歌舞伎と同じく、風紀を乱すとして禁止された若衆歌舞伎になってしまいますね。
しかし何と言っても吉沢・横浜コンビ。私の心に残る場面をいくつか。
初舞台(二人藤娘)
緊張する二人に師匠の半二郎が話します。シュンスケには「血が守ってくれる」キクオには「芸が守ってくれる」歌舞伎役者の血筋、1日たりとも休まなかった稽古に裏付けられた芸。ここは何故か感動しました。
師匠半二郎の代役にキクオが抜擢された時
橋の上でキクオがシュンスケに謝ろうとしますが、シュンスケはキクオの胸ぐらを掴んで怒声。しかし一瞬でコロッと笑い「てな事言ったらおもろいかな」と、キクオの上着のシワを治します。これ昔の上方漫才でよくあったような気がします。(後に全く逆の立場で同じことが)
シュンスケ最後の曽根崎心中
足を切断して義足のシュンスケが最後に演じたのは曽根崎心中のお初。糖尿病が進行して命の危険もある中、舞台で何回も倒れ、衣装も乱れながら花道の奥へ倒れ込んだシュンスケ。周囲がもう止めさせようとする中、キクオは「最後までやるぞ」、シュンスケは「当たり前や。誰に言うとんじゃ!」ここは本当に鬼気を感じました。横浜流星さんの一番素晴らしい演技。
学校帰りの河原で稽古する二人。(ロケ地は大阪府柏原市)
厳しい稽古を受けるシュンスケとキクオ(背中に彫りもの)。
でもキクオは辛いと思ったことは一度も無かった。まだ悪魔と取引きする前。
※後記
歌舞伎シーンの映像が凄いのは当然です。海外の有名なソフィアン・エル・ファニ氏が撮影監督。どこがどうとは判りませんが、カメラの目線というか臨場感が素晴らしい。それに劣らないのが音楽。歌舞伎のお囃子や長唄がこんなに迫力があるとは。今更ながら感動しました。更に!終盤にかけて交響曲のようなオーケストラのBGMが被さってきます。お囃子とオーケストラ。これらがこんなに相性が良いというか、融合していく感じに本当に驚きました。
別の話。これは原作がそうですけれど、架空の人間で、しかも上方歌舞伎のお話。もし東京の歌舞伎界が話の舞台なら、あまりに生々しいので、映画もここまでヒットしなかったかもしれません。追放された歌舞伎役者、不倫やスキャンダルの歌舞伎役者、すぐに何人かの名前が思い浮かんできますものね。一方で、上方の歌舞伎役者を東京の人気かつ実力派の俳優が演じた事がよかった。これを間違っても関西芸人の方が演じたら...