ケス (1969年)
製作年・国 |
1969・イギリス |
少年映画評価 |
A |
お薦めポイント |
英国労働者階級の子供たちの本当の姿 |
映画情報など |
1996年 国内公開。BD/DV発売中。 写真はデヴィッド・ブラッドレイ君 |
名匠ケン・ローチ監督が注目されるようになった作品。もし少年映画に教科書があれば必ず載っていると思います。しかし主役の15歳の少年はあまりにも暗い(おまけに美少年では決してない)。そのせいなのか、それ程ヒットもせず、映画賞などの受賞もありませんでした。
孤独な少年ビリーにとってハヤブサのケスだけが希望だった。
(一緒に大空を飛んでいるような...)
英国の炭鉱町で暮す15歳の少年ビリー(デヴィッド・ブラッドレイ)。父はおらず家族は母と兄。この炭鉱労働者の兄がクソ野郎。いつもビリーに嫌がらせ。ビリーは新聞配達で小使いを稼ぐが、体操服も買えず、学校では教師からも除け者にされている。
ある日ビリーはハヤブサの巣を見つけた。巣のあった家の人に許可を貰ってヒナを持ち帰り、ケスと名付けた。本を読みながらケスを調教。ケスは孤高な鳥だったがビリーになつく。学校でその話を発表させられたビリーの目は輝いていた。しかし悲劇は突然やってきた。クソ兄がケスを殺してしまったのだ。
イングリッシュ・リアリズム
1969年のイギリス。とっくに戦後ではなく繁栄していたはず。しかし炭鉱の町に暮すビリーは第2次大戦直後の浮浪児(死語)と大して変わらない服装。痩せて痛々しい身体。こんな少年なのに15歳でもう就職しなくてはいけない。炭鉱労働者か事務員。上の学校へ行く選択肢は無い。
ジョン・フォードのわが谷は緑なりき、少し新しいところでビリー・エリオット。英国の炭鉱町の少年を描いた映画は色々あります。炭鉱町ではありませんがオリバー・ツイストも英国下層階級の少年が主人公。
少年たちは厳しい環境で育ちますが、最後はドリームが待っていました。しかし本作のビリーには何の夢も感じらません。唯一の夢だったケスも無残に殺されて、もう大空に羽ばたく事もなくなってしまった。ビリーの心も。戦後直後のイタリアのネオ・レアリズモ映画のイギリス版でしょうか。
ビリーに笑顔はありません。盗みや万引きもします。しかしそれは他に選択肢が無くて仕方ない場合だけ。ハヤブサ調教の本は図書館で貸出を拒否され仕方なく書店で万引き。朝食抜きで新聞配達中に仕方なく牛乳を頂く。ケスを見つけた時も、まずその家の人にお願いします。この時は許可してくれました。
体操服のないビリーに教師が自分の体操パンツを貸します。そこで着替えろ。ビリーは寒空でも下着なし。持ってないのです。世界を席巻した大英帝国ですよ。その国民たる少年が下着すら持っていないの? 産業革命の頃ではなく1969年の時代で。これが階級社会。
本作で唯一安心したのが、まともな先生が1人だけいた事。蔑まれているビリーを思いやり、ケスの事をみんなの前でスピーチをさせます。ビリーの家にも来ました。ケスはペットではなく孤高な生き物だと2人で共感。この教師の存在が英国を救うのでは...
新聞集配所に遅れてきたビリー
(クソ兄が自転車を隠したため)
ハヤブサの巣を見つけた
ヒナがいるはずだ...
ケスの調教を始めた
(万引き?してきた本)
体育教師のパンツに着替える
(ズボンの下は何もはいていない)
ブカブカのパンツで体育
(これも教師の嫌がらせだった)
ビリーはシャワーが嫌だった
あばらの浮き出た不健康な肌
ケスはしっかりビリーになついた
紐をつけなくても戻ってくる
ただ1人理解してくれた先生と
ためらいながらも心を開く
ビリー役のデヴィッド・ブラッドレイ
2016年。おじいちゃんに...
※後記
最後の写真は2016年の映画「VS ケン・ローチ 映画と人生」より。デヴィッド氏はビリー役の話が来た時とても喜んだそうです。嫌々やってるのかと思っていました。日本で同様の映画といえば大島渚監督の「少年」。この少年役は施設の孤児で、映画が終わると施設に戻っていったそうです。それと同じかと思っていました。