19世紀末、まだ貧しかった北欧諸国。スウェーデンから移民の父子がデンマークのある島にやってきた。年老いた父ラッセ(マックス・フォン・シドー)と幼い息子ペレ(ペレ・ヴェネゴー)だ。年老いたラッセは仕事を探すものの次々断られ、最後に何とか農園で雇われる事になり、父子は牛小屋で暮し始めた。
最底辺の貧困生活。いじわるな使用人に酷い仕打ちを受けるペレ少年。老父のラッセは息子が辱めを受けても何もしてやれない。(父としてこんな辛い事はないだろうなあ)しかしそんな底辺生活の中でペレは成長していきます。親友が出来たり、ご婦人方に可愛いがられたりと。
一方、父のラッセにも変化が。船乗りの夫が行方不明になった婦人と仲良くなり再婚を決意。(父ちゃんも意外にやり手だったのね)。でも夫が戻ってきてしまったから、この話もお流れ。そんな父子の間に、ついに別れの日がやってきました。
農園内の生活に限界を感じたペレ。新しい世界(アメリカのこと)へ逃げ出そうと決意します。もちろん父と2人で行くつもりでした。でも父は涙ながらにペレに告げます。もう年老いた自分は行けない。おまえは一人で新しい世界へ行け。父に抱かれてやって来た少年は、父を残して一人で旅立つ。
映画を貫くのは貧しさ、沈鬱な暗さ、そして重さでした。そして最後は希望の光。これが胸を打ちました。なんといっても主演のペレ君。彼の素晴らしさに尽きるのです。役名と実名が同じなのは偶然ではなく、この映画の原作は北欧でも有名な小説で、両親がその主人公にちなんで付けたとか。(ネットで読んだ情報ですので真偽は不明)
映画の序盤では父にぴったりと抱きつくような幼い表情。それが次第に逞しい少年に。どれだけの撮影期間があったのか判りませんが、きっとペレ少年が演じ分けたのでしょう。邦画「誰も知らない」の柳楽優弥君も映画の中での成長が印象的でした。しかし、これはリアルに1年を費やしており、成長を演じ分けた訳ではありません。なおペレ少年は本作でヨーロッパでは新人賞をいくつか受賞しているとの事。
そして忘れてはいけません。名優マックス・フォン・シドー氏。この悲哀を帯びた老父の存在感。受賞こそ逃しましたがアカデミー賞主演男優賞ノミネートは伊達ではありません。欧米の父子関係はエディプスコンプレックス(息子と父は敵対関係)というような先入観を持っていましたが、「ペレ」のような映画を見ると決してそんな事はない感じがして安心します。
私の知人(大先輩)に非常にコアな映画ファンの方がおられます。その方はこの『ペレ』を鑑賞して感動し、主演のペレ・ヴェネゴー君にファンレターを送ったとか。アドレスなど何も判らないので配給会社気付けで送ったところ、何と本人から手書きの御返事を貰ったそうです。すごい行動力は敬服以外の何ものでもありません。