ジャック・ドゥミの少年期 (1991年)

製作年・国 1991年・フランス
少年映画評価 A-
お薦めポイント 映画を愛し、のめり込んだ少年の物語
映画情報など DVD発売済
(写真は8歳のジャックを演じたフィリップ・マロン)


フランスを代表するミュージカル映画「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」の監督であるジャック・ドゥミ氏が、少年時代を回想する有名な作品である事は知っていましが、なかなか見る機会がありませんでした。今回はDVDで鑑賞したのですが、少し衝撃を受けました。単なる昔の思い出映画ではありませんでした。


本作品はドキュメンタリーとして、重い病(白血病と聞いています)に冒され、死を目前したジャック・ドゥミ本人が、少年時代を回想する形で進みます。回想はドラマとしてモノクロで撮影されており、ところどころにドゥミ氏の監督した映画の場面や、本人の映像がカラーで挿入されています。ドゥミ氏の妻であるアニエス・ヴァルダが本作品の監督。

回想は、ジャック・ドゥミが「ジャコ」と呼ばれていた8歳の時から始まる。舞台は1940年、フランスの港町ナント。ジャコ(フィリップ・マロン)の家族は、小さな自動車修理工場を営む父、美容師の母、弟の4人。裕福ではないものの、平和に暮していた。

ジャコは、町にやってくる映画、舞台、人形劇が大好きで、自分でも紙で人形を作ったり。しかし戦争は容赦なくやってきた。町はドイツ軍に占領され、ジャコと弟は田舎に疎開する。そこでジャコは古い映写機とフィルムを貰った。フィルムはチャップリンの短編映画(当時の家庭で上映する娯楽用のフィルム。今のDVDみたいなもの)。これが映画への情熱に火をつけることになった。

やがてナントに戻ったジャコ兄弟。映画への情熱はますます深くなり、質屋で中古のカメラを入手すると、弟や友人を役者にして映画を撮り始める。お金をはたいて現像した最初のフィルムは露出に失敗して何も映っていない。ジャコは技術を学ぶため、映画学校に行くことを決意するが、父親は許さない。

しだいに父親との関係が悪化していく。やがて戦争が終り、青年になったジャコは、夢をあきらめず、パリへ行くのだった。(もっと紆余曲折があるのですが、大幅に端折りました。DVDを見て下さいね。)

 死を前にしたジャック・ドゥミ氏の想いとは

少年時代の回想ドラマだけを取り上げると、決して奇をてらったものではなく、よくあるような映画少年の成長物語と言ってよいでしょう。

ただ、死を前にしたジャック・ドゥミ氏の表情は静かですが、言葉に表せないような迫力を感じます。もちろん、この後すぐにドゥミ氏が亡くなられたという事実を知っているため、私が勝手に先入観を持っているからかもしれません。

それは、やはり戦争のことなんでしょう。ドイツ軍のナント進駐では大きな戦闘は行われず、住民たちは(ユダヤ人を除き)そのままの生活を続けたようです。でも不自由はあったでしょうし、何より屈辱感が大きかった事と思います。

しかし皮肉な事に、連合軍によるフランス解放時に、ナントはアメリカの空爆を受けて大きな被害が出たとのこと。本作品では、そんな戦争の悲惨なシーンは一切ありません。戦争だけでなく、苛めとか喧嘩とか、そんな暴力シーンも一切ありません。

暴力というものを、大は戦争から、小は子供の喧嘩まで、憎んだのかもしれません。しかし暴力というのは、恋や愛と同じで「物語を作る」スパイスとして、無いと味気ないものになってしまいますので、映画監督としては、やりにくかったのではないでしょうか。(ジャック・ドゥミ監督作品は、冒頭で書いたシェルブールの雨傘、ロシュフォールの恋人たちの2作品しかみていませんので、暴力シーンがあるかないかは判りませんけれど)

 ジャック・ドゥミ氏を演じた少年俳優

本作品では3人が演じています。8歳の頃を演じたフィリップ・マロンさん、13歳くらいを演じたエドゥアール・ジョボーさん、青年時代を演じたローラン・モニエさん。本サイトは少年映画サイトですので、やはりフィリップ・マロンさんが一番印象に残りました。でも3人ともよく似ているのです。同一人物が成長していった、と言われても判らないくらい。

暴力シーンはないのですが、さすが、おフランス。エロスはあるんですね。ほんの子供なのに、屋根裏部屋で女の子と裸になって何かしているのです。それを示唆するようなシーンがあるだけで、詳細な描写はありません(念のため)。私は少年映画には、暴力もエロスも不要じゃないかと思っています。

8歳のジャコ
13歳位に成長。まだ半ズボンです





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