ものすごくうるさくて、ありえないほど近い (2011年)

製作年・国 2011年・アメリカ
少年映画評価 B+
お薦めポイント ちょっと変わった少年と、渋い老人のコンビ
映画情報など DVD発売中
(写真は、トーマス・ホーン君)


2012年2月18日、ワーナーマイカル・シネマズ大日(大阪)にて鑑賞。

本年期待の少年映画でした。ところが公開が近づくにつれ、試写会等で鑑賞された方々の感想がネットにUPされ、それを見ると、あまり評判がよくありません。まあ日本で、ネットに投稿するような方々は、だいたいにおいて少年映画を好みませんので、気にしない事にしておりました。

公開初日の土曜日、朝1番の回でしたが、数えるほどの観客しかおりません。この映画が不評というよりも、映画を見る人自体が少なくなった気もします。このデフレ時代に1800円は高いですね、やはり。

911テロで父親を失った少年オスカー(トーマス・ホーン)の物語。彼は少し変った少年。知能は並外れて高いものの情緒不安定。ある時、父の遺品から謎の鍵を見つける。その鍵はなんの鍵なのか。どのドアの鍵なのか。

オスカーは鍵の秘密を探して、父の足取りなどニューヨーク中の探索を始めた。ひょんな事から、ある老人(マックス・フォン・シドー)も巻き込んでの大捜索。さて鍵は見つかったのでしょうか。


 アメリカと悲劇

アメリカはイラクやベトナム、広島、長崎で何十万人もの人間を惨殺しているくせに、自分勝手なメロドラマという批判も見ました。その点は否定できないとは思います。でも、過去にどんな罪過があろうとも、今起っている悲劇に変りはありません。なので、ここは人間ドラマとして、政治的な背景は抜きにしたいと思います。

主人公のオスカーはある種の障害者でしょうか。演じたトーマス君の神経質そうな容貌とあいまって、非常にリアルです。老人に、これまでの思いをブチまけるシーンがあります。次から次へとまくしたてる言葉、言葉、言葉。少年俳優を好まない人には煩わしい以外の何者でもないでしょう。でも、私には彼の能力を垣間見れた、素晴らしいシーンでした。
ここで思い出したのが、石田衣良さんの小説「少年計数機」。ヒロキという少年が、オスカーと同じようなタイプ。テレビドラマでは、懐かしい鈴木藤丸君が演じていました。

両親役はトム・ハンクス氏とサンドラ・ブロックさんという有名俳優ですが、何と言っても印象に残ったのが、スウェーデンの名優マックス・フォン・シドーさん。色々な名演技がありますが、私は「ペレ」の老父役が一番です。少年と老人のおかしなコンビが、鍵の謎を探して歩き回るシーンは、少しコミカルで楽しいものでした。

やや違和感があったのは、オスカーは10歳という設定ですが、トーマス君はかなり年上に見えること。また監督は「リトルダンサー」を撮った英国人のせいでしょうか、トーマス君もイングランド風(私が勝手に思うだけですけれど)なので、ちょっとクセのある感じもします。

「リアルスティール」のダコタ・ゴヨ君のような明るい系ではなく、少し陰があり、この映画では非常に適役ですが、日本人受けはよくないかもしれません。でも、鍵を探す旅の最後。筋骨隆々の黒人男性との対面。この男が、やはり亡き父を偲んで涙ぐむ様子に、オスカー少年が「ハグしてあげようか」と小さな声で言ったシーンが抜群(萌えました)。私だったらハグして貰うのに。

名優マックス・フォン・シドーさんと
なぜかタンバリンを持ち歩く

 どうしても納得できない脚本について

ここへ書くかどうか迷いましたが、この映画の最後のどんでん返しのおかげで、私にとって、この作品は少年映画としての価値を90%ダウンさせてしまったと思っています。以下は、大きなネタバレがありますので、未見の方は読まないで下さい。それは母ちゃんのこと。

オスカー少年が、あれだけ苦心に苦心を重ね、その異才をフルに使って成し遂げた探索旅行。これは、ぜ〜え〜んぶ、母ちゃんが仕組んだことだった。それが判ってオスカーは喜びます。あきれました。オマエ、それでも男か。悔しくないのか。自分の力だけで謎を解く。男のロマンじゃないか。でも、結局、母ちゃんの手のひらの中で、くるくる動いていただけ。(孫悟空が、お釈迦様の手のひらで弄ばれていたかのごとく)

なぜ、こんな脚本にしてしまったのでしょう。監督さんはフェミニストなのでしょうか。確かに、これがなければ、母ちゃんの存在は哀れなものがあります。でも、こんな結末にしなくても、母ちゃんの存在感を高める方法はいくらでもあるのに。

「フン!何が少年の才能よ、少年のロマンよ。そんな下らないもの、あたしは全てお見通しよ」と言われているような感じがして、一気にこの映画の感動も、なにもかも冷めてしまいました。マックス・フォン・シドーさんの演技もどこかへ消えてしまいました。一昨年の映画「告白」と同じです。ちょっとがっかり。




▼イーストエンド劇場へ戻る   ▼外国作品庫へ戻る