とらわれて夏 (2012年)

製作年・国 2012年・アメリカ
少年映画評価 A-
お薦めポイント 大人一歩手前の少年の思いが見事
映画情報など 2014年公開/DVD発売中
写真は実質主役のガトリン・グリフィス君


2014年のゴールデンウィーク。今年も少年映画は全く無いものと諦めていたところ、ある方から「とらわれて夏」は実質少年映画ですよとの連絡が。映画のチラシは見ていたのですが、クリント・イースウッド氏の映画「マディソン郡の橋」みたいな、中年メロドラマにしか思えず、全くノーマークでした。

ゴールデンウィークの後半、少し暇もありましたので、あまり期待もせずに映画館へ。本作品の上映館は大阪でも、たった3館。どうせ空いているだろうと思っていましたが、チケット売場が超大混雑。アナと雪の女王などの観客です。チケットカウンターに辿り着くのに30分かかると聞いて、1回は諦めて帰宅。

翌日、改めてネット予約の上、無事に鑑賞できました。やはり映画館は混雑していますが、予想通り、本作品はガラガラでした。何でも「右へならえ」してしまう最近の日本人には、危うさを感じたりして。


アメリカ東部の田舎町で暮す13歳のヘンリー(ガトリン・グリフィス)は、母と二人暮しだ。でも離婚した父とは時々会っている。ヘンリーの悩みは母の事。うつ病気味の母を立ち直らせようと、一緒に買物に行ったり、ダンスの相手をしたり。しかし母の心には、大人の男でないと踏み込めない世界があり、ヘンリーは限界を感じていた。

ある日、スーパーで買物をしていると、人相の悪い男につかまった。「俺を助けて欲しい」男は懲役18年の殺人犯で脱獄してきたのだ。刑務所病院で盲腸の手術直後だった。手術の傷は治っておらず、足も怪我している。男は、母とヘンリーを脅迫し、家へやってきた。

「危害は加えない。夜になったら出て行く」と、人相に似合わず、意外にも紳士だった。おまけに料理の腕は一流で、彼の作った料理に唖然とする二人。ここから先は、よくある映画のパターンですが、男の傷がよくならず、結局、夜になっても出て行けなかった。次の日、男は、家を修復したり、車の修理をする。しだいに母が男に惹かれていく様子を、ヘンリーは複雑な気持ちで見つめる。

男はヘンリーに対しても、まるで父親のように接してくる。実の父は優しくて理解もしてくれるが、この男のようなワイルドさは無かった。ヘンリーも、また男を慕うようになっていく。2日目、3日目と、まるで家族のような日が続く。野球を教えて貰ったり、圧巻は、ピーチパイ作り。近所から貰った桃で、ワイルドでボリュウム満点のパイに仕上げる。それも男、母、ヘンリーの3人の共同作業でだ。

しかし、こんな事が続く訳はないと、見ている観客は皆思います。男と母は恋におち、ある計画を立てますが、やがて破局がおとずれる。

 古き良きウエスタン、あるいは、渡世人また旅もの

この作品のレビューの前に、日本の学生映画チャリンコレクイエムを紹介しましたが、天下のハリウッド映画と貧乏な学生映画、規模は全く違うのですが、大きくみれば同じテーマなんですね。

何か問題のある家庭(そこには必ず女性か少年がいる)。そこへ見知らぬ男(ストレンジャー)が流れてくる。一宿一飯の恩義ではないけれど、男はしばらくの間、家に滞在し、疑似家族のような生活を送る。女性や少年は、男を慕うようになり、一緒に暮そうとまで思う。しかし、しょせん男はストレンジャー。女性や少年の思いを、さっと断ち切って、いずこともなく去っていく。

本作品の場合は、男は渡世人ではなく脱獄犯ですので、はじめから破局の匂いがします。絶対に悲劇が訪れると思いながらも、観客はやられてしまいます。私もハラハラし通しでした。最後なんか「ぐずぐずせんと早よ逃げんかい!」と大阪弁になってしまいました。

 思春期の少年の視線

本作品のポスター、チラシ、公式サイトをみても、少年の事は殆ど触れられていません。男を演じたジョシュ・ブローリンさん、母を演じたケイト・ウィンスレットさん、この二人の演技の事だけです。

もちろん、お二人の存在感は凄いもので、二人が主役なのはその通りです。でも映画は、息子である少年の目を通して描かれているのです。そういう意味では、この少年俳優も主役なのです。もうちょっと、インタビューとか、写真とか取り上げてくれてもいいのに。

さて、少年を演じたガトリン・グリフィス君ですが、2009年「チェンジリング」(クリント・イーストウッド監督)では、まだ幼い少年でした。本作品ではかなり成長していて、13歳という設定より少し上に見えるシーンもありました。良かったのは、1980年代という時代設定ですので、服装が爽やかだったこと。

少し長めのショートパンツに、白いソックス。アメリカ西海岸風のダボっとしたファッションとは一線を画する爽やかさ。今見てもいいですね。ここ近年のハリウッド映画には、思春期の少年の視点で作られた映画がかなりあるように思います。super8(11年)メタルヘッド(11年)MUD マッド(12年)など。日本でも、このタイプの映画がもっと作られてくれると嬉しいのですが。

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