ぼくの名前はスルリック、両親、兄2人、姉2人の7人家族。父さんは腕のいいパン職人で、ぼくが行くといつも焼きたてのパンをくれた。母さんは優しい人で、特に末っ子のぼくを可愛がってくれた。ポーランドでの、ぼくらの生活は本当に楽しかったんだ。ドイツ軍が来るまでは。
ぼくらユダヤ人は家を追い出され、ゲットーという監獄みたいなところへ入れられ、父さんや母さんとも離れ離れになってしまった。更に遠くの収容所へ連れていかれるという噂が出たころ、父さんがやってきて、二人でゲットーを逃げ出したんだ。
でもすぐにドイツ兵に見つかった。父さんは「いいかお前は逃げるんだ。お前の本名は忘れるんだ。どこへ行ってもポーランド人だと言え!」と告げた後、父さんは、ぼくを助けるために、おとりになってドイツ兵に撃たれた。ぼくは泣きながら走った。逃げた。
その時からぼくは、ユレクというポーランド人の孤児になった。森の中で、孤児たちのグループに入れてもらったり、優しいおばさんに助けられたり、農家で働かせてもらったり。あっそうだ、ケガをした犬と友達にもなったんだ。でも。
みんないなくなってしまった。どれだけ泣いたんだろう、もう涙も涸れてしまいそうだ。父さん、母さん、見知らぬ優しいおばさん、おじさん、孤児の仲間、可愛い女の子、大好きな犬、それだけじゃないんだ。とうとうぼくの大事な身体まで。
でもぼくは走った。東へ、東へ。ドイツ兵の軍用犬に追われた時は、水の中に入って臭いを消して逃げるんだ。父さんから教えてもらったんだ。そしてとうとう、ソ連軍がやってきた。
どうでしたか。やはり文才は無いですねえ。この映画の原題は「RUN BOY RUN」。実際に内容もこの原題の通りです。とにかく走る、走る、悲劇や悲運に翻弄されながら。
よくここまで、年端もいかない少年に過酷な仕事をさせますねえ。やさしいおばさんに助けられて、ああよかったと思ったら、次の瞬間には、そのおばさんもろとも悲劇に巻き込まれ、少年は慟哭しながら逃げるしかありません。聖書に出てくるヨブそのものですね。(聖書を深く読んだ訳ではありませんけれど)
この少年の容姿のせいでしょうか、悲劇の中でも結構いい目にも合っているのです。農家のおばさん、おじさんに妙に気に入られるのです。また、明示はしていないものの、その気(嗜好)のあるようなドイツ将校につかまり、本来ならすぐに処分されるところ、なぜか見逃してくれるのです。
本作品について、少年映画としては、なかなかの出来だと思うのですが、かなり低評価のレビューも散見されます。よく判りませんが、ユダヤ人の悲劇は事実ですが、それをあまりに押しつけがましく感じる部分がないともいえないのです。特に現在のイスラエルの横暴?もあり。
少年の父さんは言います。「父さんや母さんの事は忘れて構わない。名前は偽っても、お前がユダヤ人であることは忘れないで欲しい」。これも選民思想でしょうか。自分のアイデンティティを守るのは、ども民族でも同じだと思うのですが。
さて本作品は、なんと言っても少年俳優の演技が素晴らしいのです。泥だらけ、血だらけになって鬼気迫る表情は、日本人少年俳優にはちょっと無理かなとさえ思います。このユレクとして逃げる少年を演じたのはアンジェイ・トカチ君。回想として平和だった時代のスルリックを演じたのが、カミル・トカチ君。
どうしても出番が多かった、アンジェイ・トカチ君が印象に残ります。この作品の中で、何回下着を脱がされたのでしょうか。ポーランド人と偽っていても、割礼の有無をチェックされたら終りです。なお映画ではカメラが下を映すことは全くありませんでした(念のため)。