ぼくらの家路 (2014年)
製作年・国 |
2014年・ドイツ |
少年映画評価 |
A+ |
お薦めポイント |
母に捨てられた兄弟の孤独な放浪に胸が... |
映画情報など |
2015年公開。DVD/BD未発売 (写真は主役の兄弟) |
予告編を見た時は、幼い兄弟が母を求めてさまようロードムービー。東欧あたりの映画でよくあるテーマだろうかと思い、それほど期待はしていませんでした。例によって日本公開での上映館は、ほんの僅か。出身地なのに大阪はあまり好きではありませんが、今回ばかりは大阪に住んでいて良かったと思いました。
10歳の少年ジャック(イボ・ピッツカー)は、母と6歳の弟(ゲオルク・アルムス)の3人暮らし。母親はジャック達を愛してくれてはいるが、若い男性をみつけては愛人になり、やがて捨てられる、そんな奔放な性格の女性だった。こんな暮らしのせいか、保護司から、長男のジャックを施設に入れるよう勧告される。
母と離れたくなかったが、ジャックはしぶしぶ施設に。年長の少年から苛烈なイジメを受けながらも我慢し、なんとか夏休みになるが、母は迎えに来ない。施設で居残りの初日、あまりのイジメに反撃し、年長の少年の頭を木の棒で殴った。少年は倒れたまま動かない。大変な事をしてしまった!
ジャックは施設を脱走し、アパートへ戻るが母はおらず、鍵がかかって入れない。母のいそうな場所を探すがいない。仕方なく駐車場の廃車の中で野宿。翌日、弟が預けられた親戚の家に行くと、そのまま弟と一緒に追い出されてしまった。兄弟は母親を探しながら、街をさまようが、母は帰って来ない。
食べるものもなく、頼る人もない兄弟は、離婚した父の職場へ行くが、父にとっても二人は厄介者であり、また流浪するしかない。幼い弟をかかえて、絶望しかないのか。
ドイツ版「誰も知らない」
・子供達を愛しているが、次々と男を求め、子供達のことを考えれない母親。
・幼い弟(髪の毛の色等から父親は別と思われる)を必死に守る長男。
・幼い兄弟が、汚れた格好をして街を歩いていても、大人は誰も気づかない。
・風呂場のシーン(是枝作品の特徴)、時折流れるギター系のBGMの雰囲気。
以上の点から、どうしても2004年の是枝監督『誰も知らない』との共通点を感じます。カンヌで話題になった作品ですので、本作品のエドワード・ベルガー監督も同作品を見ていると思うのです。
そして印象に残るのが、ドイツの街の薄汚さ。ドイツに行った事のない私は、ヨーロッパの街は、おとぎ話のように清潔で綺麗なイメージを持っていましたが、都会は日本と同じですね。日本でも東京なんかはずっと綺麗になっているので、ゴミだらけの大阪と同じ。ちょっと失望と安心を同時に感じたりして。
少年の姿勢は対照的。受け身の日本、自己主張のドイツ
本作品の原題は「Jack」ずばり少年の名前。もう全く本物の少年映画です。それだけ主役を演じたイボ・ピッツカー君の印象が強烈でした。しかし映画の序盤、なかなかこのジャック少年に感情移入できないのです。ふてぶてしい態度と、全く笑顔を見せない、愛想のない顔のせいでした。
『誰も知らない』の明(あきら)は、親から捨てられ、友人から無視され、野球に誘われ、妹が亡くなっても、全て受け身のままで流されて生きていきます。少年とは無力な存在なんだ。それが涙腺を刺激します。
一方、ドイツのジャック少年は幼くても、外からの事象に対して、自分の意志で徹底的に抵抗します。このあたりは、やはりカンヌのグランプリ作品「少年と自転車」(2012年) も同じ。どちらがいいとか、悪いとかの話ではありません。でも欧米と日本の国民性の違いなんでしょう。私は、少年とは流される存在の方が、物語としては好きです。
PG-12
10歳と6歳の兄弟が主役の映画なのに、PG−12指定(12歳未満の鑑賞規制作品)となっています。子供が見たら困るような、悲惨なストーリーということでしょうか。悲惨かどうかは置いといて、まず、子供が見ても楽しい映画では全くない事は確かです。
エロスについては、母親がスッポンポン(全くボカシなし。ヘアですけど)で登場するくらいですか。一方で幼い兄弟が裸になるシーンは全くありません。(このあたり昔と180度変わりました。10数年位前なら、子供は生まれたままの自然で何も問題なし。でも大人のヘアヌードなんか見せたらエラいことでした。)
暴力シーンは結構あります。ジャックが虐められるシーン、反撃するシーン。一番衝撃を受けたのは、廃車で寝ていたところ、持ち主の男が現れて怒鳴り込むシーン。大男が激怒してジャックの顔を激しく殴ります。しかし一発殴ったところで、男の動きが一瞬止まり、その間にジャックは逃走。男は追いません。男の胸には「こんな幼い子供を殴ってしまった」という良心がよぎったのでしょうか。(そうであって欲しいと私は思っています)
色々書きましたけれど、私にとって、2015年の外国作品の中ではベストと思える名作です。少年映画なのに、こんなに暗く、そして深く、人間を描くなんて、ハリウッド作品では逆立ちしたって出来ない気がします。
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