ニュー・シネマ・パラダイス(1988年)

製作年・国 1988・イタリア
少年映画評価 A-(少年時代は全体の半分。もう少し長ければ。)
お薦めポイント のどかなシチリア島の風景とお茶目な少年。
映画情報など 1989国内公開。BD/DVDは3種類あり。
(写真はトト少年役のサルヴァトーレ・カシオ君)


映画への愛情がたっぷり詰まった名作。映画ファンならずとも音楽は聞いた事があるでしょうし、トト少年の顔も見たことがあるのではと思います。映画は123分版(国際版)、155分版(イタリア国内版)、170分版(ディレクターズカット版)の3種類がありますが、少年映画としては123分版で十分です。

『ニュー・シネマ・パラダイス』といえば、トト少年のこの笑顔。

有名な映画監督サルヴァトーレ。母からアルフレードの訃報が届いた。監督は30年ぶりに故郷のシチリア島に帰った。トト(サルヴァトーレ・カシオ)と呼ばれていた子供時代を回想する。父は戦争から帰らず、母と妹の3人暮し。トトは教会の小僧をしながら映画館に入り浸っていた。

最初は疎ましく思っていた映写技師のアルフレード(フィリップ・ノワレ)だったが、次第にトトを息子のように思い始める。フィルムが失火して火事になりアルフレードは失明。子供ながらトトが映写技師に。やがて青年になったトトは恋をした。しかし彼女は島を離れて大学へ。トトも兵役に。帰って来た時、アルフレードが言った。

お前はこの島で一生を終える人間ではない。島を出ろ。そして帰ってくるな。トトはアルフレードと涙の別れ。そしてローマで映画監督として大成功。30年ぶりに帰った故郷に映画館はない。葬儀の席でアルフレードの形見の品を貰った。1巻のフィルムだった。


戦後の貧しい時代。映画だけが娯楽だった。老若男女が映画館に押しかけて泣き、笑い、怒り、そして帰っていく。映写技師に休日はない。アルフレードは映写に人生を捧げ、結婚も子供も作ることが出来なかった。自分の仕事に誇りを持ちながらも、トトにはこんな人生を送って欲しくない。もっと素晴らしい可能性があるはず。

トト少年はアルフレードの気持ちなど判らず映画にのめり込む。映写機やフィルムが大好きだった。神父は上映前のフィルムを検閲し、男女のキスシーンなどをカットさせた。そのカットしたフィルムが欲しくてたまらないトト。まあ子供ながらにマセていたのは仕方ありません。

でも少年時代のトトは女の子など目もくれず映画一筋。これが少年らしくていいんです。欧米映画や日本映画では、少年といえば女の子を追いかけるだけの作品が多い中で、色恋以外の何かに熱中する少年は好感が持てます。もちろん何かに熱中する中で、好きな女の子を密かに想うのも自然です。

青年時代になったとたん女性に恋をします。映画は二の次に。それでもトトはアルフレードを心から信頼し、どんなことでも相談します。結果的に初恋の女性との恋は成就しませんでした。155分版や170分版では、この女性との恋の顛末が主題になっているそうです。

私は見ていませんが、155分版とか170分版の作品は123分版とは全く違う印象との事です。トト少年や映画へのノスタルジーの比重は下がり、青年時代の初恋、帰郷した中年時代のエピソードに重点が置かれているそうです。そんなのなら、あまり見たくありません。


教会で神父の手伝いをするトト。
でも居眠りばかりで叱られる。
牛乳代を映画館で使ってしまい、母が激怒。
涙を流すトト。アルフレードが機転で助けてくれた。


映写室に入り浸るトト。フィルムに興味津々。いつの間にか映写技術も覚えていく。


映画が最高の娯楽だった時代。村の子どもたちは席がなくても最前列に座り込む。


火事でアルフレードは失明。新しくなった映画館。ほんの子どもなのにトトが映写技師に。


父のいないトト。アルフレードと一緒の時間は父といるようだった。一生の思い出。


※後記
イタリア映画の映画音楽は本当に素晴らしい曲が多いと改めて感じます。本作はエンニオ・モリコーネ作曲の名曲。これを書いている2022年、ロシアのウクライナ侵攻という悲劇の中で1970年の『ひまわり』が話題に。ヘンリー・マンシーニ作曲のテーマが心に響きます。『鉄道員』も好きな曲。

もう一つ。映写技師アルフレードがトトに残した遺品のフィルム。子供の頃にトトが欲しがったカットしたフィルムを繋ぎ合わせもの。キスシーン、キスシーンの連続。これは少し笑えました。アルフレードが子供のトトに言った言葉「フィルムはお前にやる。でも俺が預かることにする」その約束を守った。そう思えば少し涙も出てきます。

さらにもう一つ。故・大林宣彦監督にも同じようなテーマの作品がいくつかあります。やはり映画への愛に溢れていました。2000年の映画『マヌケ先生』など。





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