在りし日の歌(2019年)

製作年・国 2019・中国
少年映画評価 B- (映画そのものはA+)
お薦めポイント 文革後30年。時代に流されながら生きた夫婦の物語。
映画情報など 2020年国内公開。DVD発売中。
(写真は11歳のシンシンとハオハオ)


激動の時代を生きた小市民である夫婦の物語。決して少年映画とは呼べませんが、英語タイトルが「SO LONG, MY SON」とあるように、亡くした息子への思いが全編を貫いています。3時間もの長編にもかかわらず集中力が途切れる事なく一気に鑑賞。

夫婦を演じたワン・ジンチュンとヨン・メイの二人はベルリン国際映画祭で揃って最優秀男優賞と最優秀女優賞を受賞。その賞に値する本当に素晴らしい演技でした。中国と聞いただけでアレルギーがある方もおられるでしょうけれど、本作はそんなの抜きにして鑑賞して欲しい作品です。

左はハオハオ一家、右はシンシン一家。両親も息子たちも親族以上の絆で結ばれていた。

(長い作品ですが、主な出来事を時系列的に列挙します。)
1.国営企業で働く父(ヤオシュン)と母(リーユン)夫婦に男の子が誕生。シンシンと命名。
2.全く同じ日。職場の同僚夫婦にも男の子が誕生。ハオハオと命名。
3.母は第2子を妊娠するが、一人っ子政策のために強制堕胎。母は子を産めない身体に。
4.11歳になったシンシンとハオハオ。ため池で遊んでいるうちにシンシンが水死
5.開放政策で国営企業の経営が悪化してリストラの嵐。両親は故郷を離れて中国南部の町へ。
6.両親は養子を迎えた。亡くなった息子と同じシンシンと名付けた。
7.養子シンシンは15歳の時に家出。やがて戻ってきたが、両親は真実を告げる。シンシンは出ていった。
8.同僚夫婦に呼ばれて20年ぶりに両親は故郷へ戻った。
9.成人して医師になったハオハオは、両親に20年前の事実を告白。僕が突き落としたんだ...
10.家を出ていった養子のシンシンから連絡があった。僕の恋人をお父さんとお母さんに紹介したい。


上記以外にも多くのエピソードがあります。そして本作品は時系列通りには進みません。時間が行ったり戻ったりを繰り返しますので、最初は戸惑いました。でもそのうちに全く違和感なくストーリーに没頭。大きなヤマ場がある訳でもないのに観客を3時間引きつける、この演出力は本当に大したもの。

特に主役ヤオシュンを演じたワン・ジンチュンさん。全くイケメンではありませんが、八の字眉の誠実そうな風貌。実際には不倫して妊娠させるなどの悪行もあるのですが、なぜか憎めない。とにかく主役に安心して感情移入できるところが本作成功の要因ではと思います。

同じ日に生まれたシンシンとハオハオ。両親たちはもし男女だったら絶対結婚させたのにと。それでも本当の兄弟のように育ちます。ただシンシンは少し臆病なところがあり、ハオハオはイラッとする事もあったのでしょう。

ため池での事故。シンシンが水を怖がってハオハオの手を離さない。それを周りの子供らに囃し立てられ、ハオハオは思わずシンシンを水に突き落としてしまった。20年後。ハオハオはシンシンの両親に告白。ハオハオは優秀な成績で医師になったが、この事がずっとずっと重い枷となっていたこと。

シンシンの両親はハオハオを責めません。よく言ってくれたと。その時、ハオハオの父が包丁を持ってきて、これでハオハオを殺して(復讐して)くれと泣き叫びます。ヤオシュンは血相を変えて激怒。なんて事を言うんだ。せっかく生き残ったのに。

いやいや、こんなエピソードを書き出したらきりがありません。涙腺が緩むシーンは他にもてんこ盛り。是非DVDなどでご鑑賞してみて下さい。


まだ無邪気な頃のシンシンとハオハオ。
(この頃、シンシンの母は第2子を堕胎させられた)
11歳になった。シンシンは少し臆病な少年に。
泳げないんだ。ハオハオの誘いに下を向くシンシン。


溺れたシンシンを抱いて病院へ走る両親。
長い距離を必死の形相で走る父。鬼気迫る演技でした。
シンシンの葬儀の後。ハオハオは泣き崩れる。
ハオハオの心には大きな重石が残る事になった...


シンシンと名付けた養子も15歳の思春期。
(中国のジャニーズと呼ばれるアイドルの一人らしいです)
養子のシンシンに事実を告げ、身分証を返した。
今までシンシンとして、いてくれて有難う。
養子のシンシンは思わず土下座。そして出ていった。


息子の死後30年。色々なことがあった夫婦。息子の墓を真ん中にして、なぜか満足そうな表情...


※後記
中国映画ですが、政府の政策などを非難するようなトーンも感じられます。2019年当時はまだ自由があったのでしょうか。「国策に合わない」映画や芸術を排除するようになれば、将来は暗いとしか思えません。
日本では「蛍の光」で有名なスコットランド民謡が印象的に流れます。中国では別の歌詞のようですが、広く民衆に歌い継がれている曲だそうです。エンドロールには、数名の日本人と思われるスタッフ名がありました。英国の曲、日本人スタッフ。こうした国際的なコラボがこれからも中国映画で続けばよいのですが。





▼イーストエンド劇場へ戻る   ▼外国作品庫へ戻る