1980年代には良質のTVドラマがいくつかありました。もちろん90年代も、2000年代にも良質なドラマはいくつでもあるのですが、なぜか印象に残っているドラマが3つあります。いずれもNHKの作品でした。
一つは今回紹介する「タクシー・サンバ」第1話「夜の少年」、二つ目はNHKドラマスペシャル「少年」、三つ目はドラマ人間模様「ぼくは12歳」。どれももう一度見たかった作品ですが、最初の2本は、最近になり録画を見せていただくことが出来ました。古い録画ですので、画質は良くはないですが、少しキャプチャー画像も掲載しておきます。
訳あって一流商社を退職した朝田(緒方拳さん)は、タクシー運転手になった。初乗務の日、深夜2時を過ぎて、道路に飛び出してきた少年(松田洋治さん)を乗せることになった。なんと東京から茨城県牛久まで行ってくれと。
不審に思いながらも牛久まで行き、少年の指定した場所で下ろす(料金は支払った)が、どうも様子がおかしい、あてもなく歩き出した少年を、朝田が追いかける。「お前、どこへ行くんだ」少年は逃げ出したが、朝田につかまえられ、涙をみせる。
話を聞くと、父とケンカして家出してきたらしい。朝田は少年をタクシーに乗せて東京まで戻る。少年の家のある堀切駅(東武伊勢崎線)近くまでくると、必死になって息子を探している父(愛川欽也さん)がいるが、少年は「あんなのお父さんじゃない」と拒否する。
朝田は思わず少年を平手打ち。あれだけ心配してくれるお父さんに、その態度はなんだ!その日は少年を父親に渡して別れたが、朝田はちょくちょく少年の様子を見に行くようになった。少年の父からも話を聞いた。東京都清掃局でゴミ回収の仕事をしている父を尊敬できないのだそうだ。
恥ずかしい職業だというのだ。母も父みたいにならないよう、勉強していい学校へ行けという。朝田はタクシーに少年を乗せ、父のゴミ回収車を追いかけて、父の仕事の様子を1日見せた。そして父の仕事ぶりをみて、決して恥ずかしい職業ではない。本当は父のことを好きだった。
1話完結で全3回シリーズのドラマですが、それぞれ一筋縄ではいかない脚本になっています。タクシー運転手というのは、過去に何かあった人間の溜まり場ですが、本ドラマでは、佐野浅夫さん、坂上二郎さん、毒蝮三太夫さん、岡本信人さん、など実力派の俳優が脇を固めていて、なかなか濃密な職場になっています。
あなたがタクシー運転手だったとして、深夜2時、まだ幼い中学生の少年が一人で「乗せて下さい」なんて言われたらどうしますか? 私なら何か厄介な事になりそうで、あまり関わりたくないところです。
しかしここで引いてしまったらドラマにはなりません。緒方拳さん扮する主人公は、おせっかいという線を超えて、少年に入り込んで行きます。しかし、実は少年の問題というよりも、ゴミ収集人、タクシー運転手といった社会の下層(すみません)で働く職業人の意地がテーマだったと思います。
緒方さん、愛川さんはいいとして、少年俳優の松田洋治さんがなぜベテラン?それはもう言わずもがな。幼い頃から映画に、ドラマに、主役クラスを演じてきました。また洋画の吹き替えなど声優としても活躍しており、セリフまわしは大人顔負けです。
しかも中学生ですが、本ドラマでは、まだまだ少年そのもののボーイソプラノ。近年では神木隆之介さんのように童顔は長持ちしても、声変りが早い少年俳優が多くなっているだけに、昔はよかったのかも。
ちなみに本ドラマは、2013年にスカパーのチャンネル銀河で放送されました。第2話「愛のかたち」は自殺願望の女性を乗せてしまった話、第3話「路上の荒野」は轢き逃げや強盗に巻き込まれる話。少年俳優は出てきませんが、それぞれ味わい深い話でした。
タクシーに乗せられ、手際よくゴミを回収する父の仕事ぶりを見せられた少年は、父とその仕事を見直します。受験勉強の合間をぬって、父は少年を釣りに誘います。これが本当の親子の姿。いかがでしたか。ちょっと画質が悪いのですが、少年ドラマらしい雰囲気だけでも味わっていただれけば幸いです。