テレビドラマ・データベースによると、1986年10月25日に秋のドラマスペシャルとして放送されました。多分、それ以降は再放送もないのではと思います。放送直前にテレビ週刊誌(テレビガイドだったか)で、評論家が以下のような記事を書いていたのを覚えています。
六浦誠さんの少年期最後の作品だろうと思い、放送当時に鑑賞しましたが、録画なんて出来ず、その後は私にとって幻の作品に。最近になって録画を見せていただく機会があり、感動が蘇りました。
主人公は中学生の少年(六浦誠)。母と二人暮らし。実は3人兄弟の末っ子だったが、両親が離婚し、末っ子の少年は母が、姉は父が引き取り、年上の兄は一人で自立した。この家族構成が意味を持つのですが、ドラマが進むまでは判りません。
ある夜、母が帰宅すると、少年の姿がなく、ゴミ箱の中に「お母さん、さようなら」と書いた紙が。家出、自殺かもしれないと、別れた夫にも相談するが、少年は兄の家に泊まっていただけ。姉も父から自立して、兄と一緒に住んでいた。少年は自分も兄姉と暮したいと訴えたが、あっさり拒否される。
少年は精神が不安定なのか、時々シャックリのような奇声を出す。奇声を出した後「な〜んちゃって」とフォローもするので、友人達からは、ふざけているだけと思われている。母との関係もぎくしゃくし、父が愛人と歩いているのを見たりして、奇声がひどくなっていく。
しかしある日、友人に奇声の意味を知られてしまった。音楽の先生が言っていたフォスター(米国の作曲家)の言葉だった。音楽の先生は生徒達から馬鹿にされていたこともあり、友人は少年を囃し立てる。それに怒った少年は、思わず友人に暴力をふるってしまった。
この暴力騒動で、また両親や兄姉が集まるが、みんな自分の都合の話だけで、少年そっちのけで揉めるだけ。その様子に、少年は大声で奇声を繰り返し、号泣したのだった。フォスターの言葉とは
よくある話はありますが、骨太のドラマで見応えがありました。母は小川真由美さん、父は故・山城新伍さん、兄は竹本孝之さん、姉が石野陽子さん。みんな本当の家族のようでした。こんな良質のドラマですが、ネットを検索しても殆ど情報がありません。主役の六浦誠さんのWikipediaにすら記載されていないのは残念です。
さて、この作品のモチーフの一つが米国の大作曲家フォスター。BGMにはフォスターの曲が使われ、まるで古い洋画を見ているような、いい感じです。しかしフォスターは貧乏で不遇な生涯を送り、亡くなった時、所持金は僅か38セント、ポケットには1枚の紙切れが。
そこに書かれていたのは「Dear friends and gentle hearts」という言葉。このドラマの少年がつぶやいていたのは、gentle hearts これをシャックリのような奇声で叫んでいたのでした。gentle heartsが欲しいのは、フォスターだけでは無かったのですね。
なんと言っても、本作品で輝いていたのは、中学生役の六浦誠さんでした。中学生で声変りも始まっていますが、目の輝きは少年そのもの。これが少年期最後の作品で、テレビなのが残念ですが、最高の作品かもしれません。
幼児番組「ピンポンパン」のビッグマンモスに入っていた時は目立ちませんが、解散後、テレビで引っ張りだこになったようです。テレビ版の「君は海を見たか」「北の国から'84夏」「実写版ゲゲゲの鬼太郎」などが印象に残ります。