昔はおれと同い年だった田中さんとの友情

初回放送・製作 2024年8月15日・NHK
作品評価 少年と、戦災にあった老人の友情。特に奇をてらった話ではないが、温かい気分になれる秀作。
お薦めポイント 老人と少年がチョコバナナを食べる。まるで恋人...
関連情報など ディスク等なし。配信あり。(写真は中須翔真君)


2024年の終戦記念日に放送されたドラマ。もう戦争といっても実際の体験者は少なくなり、毎年8月になっても戦争関連の放送も少なくなった感じです。そんな中で、このドラマはNHKの良心を感じさせてくれた気がします。もちろんドラマとしてツッコミどころはありますけれど。

残念なのは8/15の放送日も、8/30の再放送日も暴風雨で、多くの地区では大きなテロップが入ってしまったこと。私の住む大阪では8/15の放送は無事に録画できました。配信などでも鑑賞できますけれど。

自分たちのスケボーで骨折した田中さんのお世話をしにきた3人。
左からシノブ、タクト、ウタカ。3人組が男の子だけなので、なぜか安心してみれます。
女の子がいた方が華やかですが、子供たちの三角関係?とか、老人が女の子を贔屓とか...

大阪のある町に住む小6のタクト(中須翔真)、ウタカ(原 知輝)、シノブ(石坂大志)の3人組は、ある神社の境内でスケボー。そこへ管理人の田中さん(岸部一徳)が。叱られると思ったが、田中さんはスケボーに興味を持ち、乗せて貰ったが転倒。タクトは母親を呼び、救急車で田中さんを病院へ。3人は骨折した田中さんの世話をする事に。

3人は神社の掃除などを手伝うが、最初はぎこちない関係。タクトは田中さんが戦争で天涯孤独となり、その後70年間結婚もせず一人で生きてきた事を聞き、人間として興味を持った。3人は田中さんの体験を学校で話して貰おうと画策する。講演会で田中さんは静かに話す。そして3人に、もう世話はしてくれなくていい。これからは自分のために時間を使いなさい。


まず田中さんを演じた岸部一徳さんが抜群。いつも静かで怒らない。タクトが「怒ることないんですか」田中さんは「なんで怒るの。ぼくはこんなに幸せなのに」世間では老人になると常に何か文句を言って怒っています。でも岸辺一徳さんが、ひょうひょうとした言葉で言うと妙に説得力がありました。

講演後の質問時間。クラスの嫌なガキが田中さんを責めて挑発するような質問。司会のタクトは思わず反論しかけますが、田中さんはタクトを止めて、静かに切々と答えます。確かにぼくは間違ってました。今流行りの論破とかではなく魂で語りかける。嫌なガキも沈黙。

一番印象に残った会話。田中さん「もう骨折も治ったし来んでええよ。これからは自分のために時間を使こて。勉強とか趣味とか友だちとか」タクト「友だちのためならいいの」田中さん「もちろんや」タクト「やった。そしたらここへ来るわ。友だちやし...」(実際のセリフはこの通りではありません)

やっぱり田中さんは幸せ者。タクトのような少年にこれだけ慕われるなんて。老残とも言える人間が、孫でもない少年にまるで恋人のように思われるなんて。現実ではあり得ないでしょうけれど。羨ましい。そう言えば映画『夏の庭 The Friends』でも老人が3人組の少年に慕われていました。

そして最後にタクトを演じた中須翔真君。もう本当に自然で名優と言ってもいいほどの演技。本作では実齢は中学生でしたが、まだ綺麗なソプラノボイス。そして経歴もすごい。NHK朝ドラ、NHKスペシャル南海トラフのドラマ版、映画かくしごとなど。これから注目の俳優さんになること間違いなし。

その他のキャストにも大阪や関西出身の俳優さん。主役の岸辺一徳さん、中須翔真君はもちろん。担任教師役の森永悠希さん、そして10年後の青年タクトを演じたのは大八木凱斗さん。もう子役の頃の面影はありませんが、本当に懐かしい。


どこもスケボー禁止。ここならいいかと始めたが。
管理人の田中さんにスケボーを貸したおかげで...
お世話の初日は掃除。袋いっぱいのお菓子がお土産。
田中さんは3人がいてくれるだけで良かった。


田中さんの話をきくタクト。
父と兄は戦死。母と妹は空襲で亡くなった。
境内の空襲犠牲者の慰霊碑に手を合わせる3人。
この町の犠牲者は23人。数字は大きくないけれど...


11歳の田中さん。バリバリの軍国少年だった。
最愛の兄が名誉の戦死。泣いてはいけない...
田中さんの話をみんなにも聞いて欲しい。
(なぜか子役の入浴シーンは今でも必ずあります)


3人は担任教師と相談して田中さんの講演会を開催。
タクトが司会進行をつとめる。全部3人が中心で。
嫌なガキが質問。そんな話聞かんでも皆知ってます。
(きっと秀才なんでしょう。でも冷たい人間)


田中さんの好きな食べ物は。チョコバナナです。
お祭りの日、タクトが買ってくれた。
10年後、21歳のタクト。今では空襲の語り部。
(演じるのは大八木凱斗さん。昔は可愛かった...)


夏祭りの日。ベンチに2人で座ってチョコバナナ。年は70年違うけれど親友だ。まるで恋人...



※後記
最近の人名は漢字と読みが一致しなくて。主役タクトの中須翔真君ですが、ショウマとばかり思っていたらトウマなのですね。友人ウタカですが、私にはユタカと聞こえていましたが、漢字をみると宇太佳となっていますので、本稿ではウタカと表示しました。でもユタカと読むのかもしれません。

もう一つ。これはちょっと書くか迷ったのですが。こういう戦争ドラマ、特にNHKに対しては自虐という言葉で批判する方々が近年激増している気がします。これは難しい問題です。そうかと言われればそういう気もしますし、自由もあっていいとも思いますし、私にはよく判りません。






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