泥の河 (1981年)

少年映画評価 6点
作品総合評価 9点
少年の出番 100%(主役)
お薦めポイント 汚れた大人の世界を見つめる少年
映画情報など 1981年公開/DVD発売済(BOXのみ)


大阪の昭和を描いた小栗康平監督のデビュー作。モノクロ作品ながら1981年の邦画の映画賞を独占し、海外でも評価の高い名作です。原作は宮本輝氏の同名小説。

■ストーリー

戦後10年、ようやく経済成長を始めた頃の大阪。安治川の川辺で労働者向けの食堂を経営する板倉晋平(田村高廣さん)は、妻(藤田弓子さん)と息子の信雄(朝原靖貴君)の3人家族でつつましく暮らしている。

ある日、信雄の店の近くに不思議な船が係留される。その船には信雄と同い年の松本喜一(桜井稔君)が、姉と母と暮らしているらしい。信雄と喜一は互いにのぶちゃん、きっちゃんと呼び合う友達になるが、実は喜一の住む船は廓船(くるわぶね)と呼ばれる売春宿であり、喜一と姉の銀子は学校にも通っていない。

しかし信雄の両親は、そんな姉弟を家へ呼んで食事をごちそうしたり、風呂へも入れてやるなど実の子のように可愛がる。 それは、姉弟の父親が戦争で亡くなった事を知っており、自分もまだ戦争で負った心の傷が癒えていないからであった。

夏祭りの夜、信雄と喜一は夜店へ出かけるが、貰ったお金を落としてしまい、二人は気落ちして、トボトボと帰ってくる。喜一は信雄を慰めようと、宝物にしている川蟹に火をつけて遊ぼうとするが、その時、信雄は船の中で男女の営みをみてしまい、いたたまれず家へ帰ってしまう。

それが喜一と銀子をみた最後だった。翌日、郭船は錨を上げて出て行ってしまった。信雄は船を追いかけて「きっちゃ〜ん」と何度も叫ぶが、姉弟は顔を出すことはなかった。


■のぶちゃんときっちゃん

朝原靖貴君と桜井稔君が演じましたが、信雄(のぶちゃん)、喜一(きっちゃん)という役名の方が強烈な印象でした。二人のルックスは、到底「子役」とは思えない普通の子供で、最初に出てきた時は、この子らに主役が務まるとは思えませんでした。

しかし、その普通の子供たちが、肩肘はらず、演技をせず、役に溶け込んでしまっている事が、淡い物語とあいまって切なさが増幅されたのでした。信雄は、やや晩生の男の子、喜一は逆に少しスレた感じの子。田村高廣さんといえば、勝新太郎さんのとのコンビで「兵隊やくざ」シリーズがありましたが、喜一の笑い方は、この勝新太郎さんの笑い方にそっくりな感じでした。

以前ブログでも書きましたが、映画「Always三丁目の夕日」の名子役、須賀健太君と小清水一揮君の原点は、この信雄と喜一であるような気がします。

■姉の銀子も素晴らしい

少年映画からは少し外れますが、姉の銀子を演じた子役(柴田真生子さん)も存在感が抜群のキャスティングでした。貧しさの中にも、きりっと背筋を伸ばした少女。弟や母の面倒をみる「聖母」の一面と、他人からの親切に感謝しながらも、施しや憐みを毅然と拒否する尊厳さを持った少女。

昔はこんな少女が大勢いたのでしょうか。今の女の子は、小さい時がら愛されて育ち、「人から与えられる」事が当然で「人に何か与える」なんて全く考えもしない(少し言いすぎかな)泥で汚れた足を洗ってくれる銀子に、信雄は憧れ以上の感情を抱いたのでしょう。彼女の存在も映画「泥の河」の成功の大きな一因だと思います。

■大阪が舞台なのですが

この映画が製作されたのは1980年頃。いくら大阪府が革新府政で都市整備が遅れていたとはいえ、こんな戦後すぐのような荒廃したロケ地はあったのだろうか、とずっと思っていました。

色々ネットで調べてみると、どうもロケ地は大阪市ではなく、名古屋かどこかの運河沿いらしいです。「荒廃した」なんて失礼な事を言いましたが、今考えれば、非常に味わいのある運河で、こんな所が残っているならば、是非一度散歩してみたいですね。

ロケ地以外にも、監督の小栗康平氏は群馬県出身、母親役の藤田弓子さんは東京都出身と、関東人がこの映画に携わったことが、ある意味、成功の要因だったと思います。大阪人だけで作ると「アク」が強すぎて、全国区の人気作品にはならない気がします。

■映画館でみたい!

実はこの作品、映画館でみたことがないのです。最初に観たのはTVで、しかも映画ではなく、故マルセ太郎氏の「スクリーンのない映画館」という話芸をNHKが放送したものでした。それで気になってレンタルで借りてみたのが最初です。

DVDは単独では発売されず、小栗康平全集というBOXを買わないといけないので、なかなか手が出ない状況です。最近でも頻繁に映画館で上映されているようですが、下北沢とか東中野など、なぜか東京ばかり。大阪が舞台の映画なのに、関西では上映の機会が少ないようで、残念です。

Always三丁目の夕日に負けない、大阪人も胸をはれる「泥の河」のような名作を、関西の映画人は是非作って欲しいものです。





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