次郎物語 (1987年)

少年映画評価 8点
作品総合評価 7点
少年の出番 100%(主役)
お薦めポイント 名作小説を素直に映画化
映画情報など 1987年公開/VHSビデオ絶版
(写真は次郎役の伊勢将人君)


下村湖人氏の感動的な名作小説。私が小学生の時に読んだ長編小説でした。こんなに長い小説を読んだのは、生まれて初めてでしたが、これを4,5回は読み返したものです。本当に感動した小説でした。(PCもTVゲームもありませんが、時間はいくらでもあったので、買って貰った本は、芯まで食べ尽くすように読みました。)

■ストーリー

昭和よりも古い時代の九州が舞台。元士族で裕福な旧家の次男として生まれた本田次郎(幼児時代は樋口剛嗣君) は、母親のお民(高橋恵子さん)が病弱なこともあり、生まれてすぐ里子へ出される。乳母のお浜(泉ピン子さん)は、次郎をわが子以上に可愛がり、次郎もお浜になつき、すくすくと幼児時代を過ごす。

次郎が10歳(子役は伊勢将人君にバトンタッチ)になった時、次郎は本田家に連れ戻される。お浜と別れるのが嫌な次郎は色々な悶着を引き起こす。実の父母、兄弟、祖父母に全く心を開かない次郎であったが、1番先に心を開いたのは、父(加藤剛さん)だった。正義と志を持った役人でありながら、人格と優しさを持つ父の言葉には、素直に従う次郎だった。

そして病弱な母に対しても、乳母のお浜とはまた違う「愛情」を次第に感じるようになっていく。兄や弟にも心を開き、祖父は亡くなってしまうが、祖母とは最後まで和解できないまま。(映画では、このあたりの和解プロセスは、時間の関係なのかあまり描かれていません。)

「志の人」の父親も、時代の流れには逆らえず、旧家は没落し、先祖代々の家を売り払い、役人を辞め、町の小さな家へ引越して商売を始めることになる。母のお民は病状が進行したため、町には行かず、別の家で養生することになるが、次郎は一人、母と同居して看病することを宣言する。

こうして、赤ん坊として生まれてから母親と交わることのなかった10年間を取り戻すような、2人の時間が始まる。しかしそれは余りに短い時間だった。母の死。短いながらも母と濃密な時間を過ごした次郎は、大きく成長していくのだった。

■次郎を演じた伊勢将人くん

この作品は、次郎という少年の成長を描いた物語ですので、当然ながら次郎役の少年俳優がキーマンとなります。演技力も要求されます。ということで10歳の少年では無理とみられたのでしょう。実年齢より上で、幼く見える子役を探したんだと思います。

伊勢将人くんは当時中学2年生と聞きましたので、10歳を演じるにはどうかと思いましたが、違和感なく、非常にいいキャスティングだったと思います。(将来、非常に有望な役者さんになると思ったのですが、その後は不明です。)

父と母のキャスティングですが、私が子供の頃から小説を読んでイメージしていた人とは違うのですが、加藤剛さん、高橋恵子さん、非常に良かったですね。日本を代表する美男美女で、しかも2人とも凄く知性的なルックスが良かったです。(ちょっと洗練されすぎかもしれませんが)

小説のイメージに比較的近かったのが、お浜の泉ピン子さんですね。まあ彼女はこの手の役なら何をやってもマッチするのかもしれません。

■気概を持った人と社会を創っていくために

なんか崇高な見出しを付けてしまいました。「次郎物語」は、親子の愛や死などを通して人間が成長していく物語なんですが、かつての知識人が持っていた気概、高いこころざしが感じられ、何よりもそういう哲学に真剣な態度が印象的です。(今は人生などに正面から取り組む人間はダサイ。常に斜に構えているか、チャカすようなお笑い系ばかりが。)

次郎は容貌にコンプレックスを持っています。長男の兄は祖父の名をとって「恭一」、なのに次郎が生まれた時、お猿にそっくりということで、適当に「次郎」。しかし弟は父の名をとって「俊三」。確かに、今こんな命名をすると、虐待かもしれません。

そんな次郎に、父は「名前なんて単なる符丁に過ぎない。立派な人間になれば関係ないこと」などと、次郎に大きな志を持つように育てていきます。それを受けて次郎が考え、悩み、そして成長していく姿に、読者である私も共感を持たざるを得ませんでした。

今の子供達は、ネット、アニメ、ゲーム、テレビ、携帯、オーディオ、塾で一杯なんでしょうが、是非、次郎のような素晴らしい豊かな生活を、人生の一時期でも過ごして欲しいものです。

■その他

次郎物語は過去に4回も映画化され、またテレビドラマ化もされましたが、この作品が撮られた1987年以降は話題にもなっていません。時代に合わなくなってきたんでしょうね。本作のVHSのビデオの販売もレンタルも終了していますが、数量的には結構出回っていますので、中古ビデオ店などを探せば簡単に入手できます。

2006年にDVDが発売されたようですが、これも絶版でAmazonで検索すると中古で数万円もの値段がついており、とても手が出ません。こんな名作なので何とか再発売して欲しいところです。みなさんも機会があればビデオを、いや小説を読んで下さい。今はネットの青空文庫で無料で読めるそうですし。





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