あの、夏の日〜とんでろ じいちゃん (1999年)

少年映画評価 9点
作品総合評価 7点
少年の出番 100%(物語の主役の1人)
お薦めポイント 素晴らしいテンポで進む夏物語
映画情報など 1999年公開/DVD発売中(写真は厚木拓郎君)


新 尾道3部作の締めとなる珠玉の小品です。このところ「野ゆき山ゆき海べゆき」「漂流教室」と大林宣彦監督作品を見直しておりましたが、本作「あの、夏の日」も早くレビューを書かないと、と思いながらも放置していた作品の一つでした。

実は映画館で見たことはなく、レンタルビデオで見ただけでした。しかも返却期日に追われ、ところどころ早送りで見る、といった映画ファンにあるまじき行為。それでも少し印象には残っていました。今回はレビューを書くために、じっくりと腰を落ち着けてDVDを購入して鑑賞。いや〜本当に良かった。一気に2時間経ってしまいました。

坂の町、尾道の石段を下る、小林桂樹さんと厚木拓郎君
■ストーリー

東京で暮らす小学5年生の由太(厚木拓郎君)は、のほほん?とした性格から「ボケタ」とあだ名で呼ばれている。ある日、祖父の賢司郎(小林桂樹さん)に、惚けの症状が出始めたと聞かされた由太の両親。そうだ、夏休みに由太を田舎に帰らせて爺ちゃんを見張らせよう。(なんで、この発想が出てくるのか、納得はできませんけど)

という訳で、夏休み。由太は一人で爺ちゃんの暮す尾道へとやって来た。婆ちゃん(菅井きんさん)の出迎えを受けて、ローカル電車の窓から見たものは、なんと、空を飛ぶ爺ちゃん!でも婆ちゃんには見えないらしい。やがて坂道を登ってたどりついた家。爺ちゃんは由太に会って喜んでいるが「厳しく勉強させるぞ」と手ぐすねを引いて待っていたようだ。あ〜あ。困った由太。

爺ちゃんと由太の二人の生活が始まった。爺ちゃんの周りは不思議なことばかり。ある日、尾道の対岸の島へ行こうとした二人。フェリーにも乗らず、橋もわたらず、泳いで行こうとする爺ちゃん。泳げない由太。爺ちゃんは舌打ちしながら「じゃあ、目をつぶってワシにつかまっておれ!」

変な呪文とともに二人は空を飛んだ。目を開けてみるとそこは対岸の島。でも様子がおかしい。どうやら爺ちゃんの子供時代にスリップしたようだ。その時代の変な人間達に取り囲まれて大ピンチの由太。あっと気がつくと、家の縁側で寝ていたのだった。

そんな時、由太は、爺ちゃんの先祖代々の菩提寺の娘(勝野雅奈恵さん)に会い、お寺の秘密の部屋を見せて貰った。それから何度か過去にトリップした由太は、爺ちゃんの秘密を知ってしまった。それは爺ちゃんの淡い初恋。しかし儚く消えた。初恋の少女は病で死んだのだ。爺ちゃんはそれを自分のせいだと今でも思っている。でも違うんだ、爺ちゃんのせいじゃない。

由太は爺ちゃんと一緒にそれを確認した。これまで何十年も抱えていた罪の意識。それが消えた爺ちゃん。やがて爺ちゃんは安らかに旅立っていった。

■大林監督好み?の子役、厚木拓郎くん

この映画の主演は小林桂樹さんですが、それに負けないキーマンが子役の厚木拓郎くん。大俳優に臆することなく、マーペースで由太を演じきりました。

大林監督が好んで使う子役、なんとなく共通点があるような気がします。それは表情の豊かさ。百面相といっていいかもしれません。厚木くんもコロコロ表情が変わります。

幼児に見えたり、思春期前に見えたり、男前にみえたり、そうでなかったり。基本的にはポワ〜ンとおっとりした感じの子役が好みなんでしょうか。セリフはやや舌足らずな部分もありましたが、時おりヒャッとか、ヒェーッという感嘆符的な発声が印象的でした。

この作品の後、「淀川長治物語」という映画で主演に抜擢されました。2008年の「その日のまえに」ではチョイ役ですが重要な役で出演。「気持ち悪い」なんて言われる鉄道オタク役でしたが、何となく大林監督の愛情を感じる役でもありました。

■その他の出演者

小林桂樹さんの熱演も大したもの。浴衣の裾からフンドシ丸出しの恥ずかしい姿もなんのその。興業的には失敗ともいえる本作品の中で、毎日映画コンクールの男優主演賞を受賞されています。

菅井きんさんの広島弁(尾道弁)も味わい深い。本当にプロの役者さんです。ネットで本作品を検索すると、女優の宮崎あおいさんがヒットします。爺ちゃんの初恋の少女を演じており、ヌードになったのが話題(ヌード?って言っても、そんなに大げさなものではありません)

まだ有名になる前の少女でしたが、顔は現在の宮崎あおいさんと同じ。風格がありました。でも大林作品には暗すぎる印象。ダイナマイトバディ?を披露してくれた勝野雅奈恵さんのはじける笑顔。彼女の方が似合っています。

そして出番は少ないながら、小林桂樹さんの少年時代を演じた久光邦彦君。眉のきりっとした伝統的な和風美少年。彼も宮崎あおいさんと一緒に裸になるのですが、嫌らしさなんて微塵もありません。でも何年か先には、このDVDを所有しているだけで罪になるのでしょうか。いやだ、いやだ、そんな社会

あっと、忘れていました。元祖 大林監督お気に入り子役だった林泰文さん。青年になって登場。眉にしわを寄せる表情に、昔の面影が残っていました。

祖父の少年時代を演じた久光邦彦君
(後の「淀川長治物語」でも友人役で共演)
メイキングで作品を語る大林監督
(右後の映画ポスターがいいなあ)

■1950年代の洋画のような世界

新・尾道3部作の中で全く知名度がない作品かもしれません。夢見る乙女が主役ならまだしも、老人と少年が主役ですから。劇的な物語がある訳ではありませんが、素晴らしいテンポで話が進み、少年の夏の日が過ぎていく。最後はじわじわと胸にくるものがあります。

なんと言ってもBGMが素晴らしい。まるで映画「旅情」のベネチア、「慕情」の香港。そんな1950年代の洋画の世界への憧れが大林監督にはあったのかもしません。大林映画ファンの方でさえ、本作品をみた人は少ないようですが、是非鑑賞すべき作品だと思います。(DVDが絶版になる前に)





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