淀川長治物語 神戸篇サイナラ (2000年)

少年映画評価 8点
作品総合評価 7点
少年の出番 80%(声は100%)
お薦めポイント 君とは対等の友人でいたいんだ。
映画情報など 2000年公開/DVD発売中(写真は厚木拓郎君)


映画評論家、淀川長治氏の少年時代を描く作品。レンタルビデオなんか無い時代、テレビ番組の大きな目玉は映画でした。その冒頭、映画解説者の腕の見せどころです。短い時間で作品の魅力を語り、視聴者の期待をふくらませてくれました。そして終りは感動を締めると共に、次週放送作品の予告を伝えます。

解説者というジャンルを確立されたのが、この淀川長治氏だったのではと思います(申し訳ありませんが、あまり詳しい話は判りません)。淀川氏の解説を聞いたのは、私もまだ少年の頃だけですが、氏の独特の話し振りを今でもよく覚えています。お亡くなりになられたのは1998年。晩年の頃は残念ながらテレビで映画を見る事はありませんでした。

この映画は淀川氏と親交のあった大林宣彦監督が、生前の約束を果たすために製作したそうです。当初はテレビで放送され、その後劇場公開。前年の「あの、夏の日」とほぼ同じキャストで作られています。

■ストーリー

淀川長治氏は1909年、神戸でも指折りの商家の長男として誕生。当時では考えられない裕福な少年時代を過ごします。一家の楽しみは活動写真。長治氏も幼児の頃からその魅力の虜に。

小学校に上った長治少年(厚木拓郎君)。毎日、級友達と活動写真ごっこ。右の写真は、怪傑女性ヒーローに憧れて、赤い風呂敷(腰巻?)を頭に巻いて、女性になっているつもりらしいです。

この少年時代、親友である清山吾一(久光邦彦君)、優しくしてくれた芸者の淀丸さん、映画会社の広報マン、様々な人と出会い、そして別れを経験します。

青年に成長した頃、淀川家は没落。一番しっかり者の姉は家出。妹は嫁ぎ、ひ弱だった弟は自殺。長治青年は母や祖母の願いを振り切って、映画の勉強のために東京へ出発します。ここで「神戸編、全六巻の終了。続きをお楽しみに」という口上でしたが、続きの東京編はいつになったら作ってくれるのでしょうか。


神戸の港を見下ろす丘。弁当を食べる淀川少年と友人(横尾忠則氏の絵のような)
■なんてったって厚木拓郎君

前作「あの、夏の日」で幼いながらも身体を張った演技をみせてくれた厚木拓郎君。彼がこの映画も堂々の主役です。しかし厚木君が演じるのは全体の6割くらい。赤ちゃん、幼児、青年(高校生)役はそれぞれ別の俳優さんが演じています。青年を演じた勝野洋輔さんも熱演でした。

それでも厚木君の存在感が圧倒的。それは映画の全編にわたってナレーションを彼が担当している事もあるかもしれません。しかしそれだけではありません。大林監督の視点、思いが厚木君に重なっている、そんな印象を強烈に感じます。

その期待に厚木君も十分こたえる演技をしています。ルックス的には地味なのですが、身体中からキラキラしたものが滲み出てくるような存在感。これは少年俳優独特のものでしょう。成人すれば、残念ながら輝きは失せてしまいます。

■君とは対等の友人でいたいんだ。

淀川氏は90年近い生涯ずっと独身との事。そのせいか本作品でもガールフレンドは一切登場しません。その代り、生涯の親友、清山吾一との関係が描かれています。裕福な淀川少年に対し、清山少年は貧乏。天真爛漫な淀川少年は彼に豪華弁当をあげたり、映画に誘ったりとデート(?)を重ねます。

でも清山君の気持ちは複雑。このまま淀川君から貰い続けると卑屈になり、本当の友人ではなくなってしまう。そう思った清山君は、映画館の前で、誘ってくれた淀川君に断りをいれます。でも清山君は優しい。そっと新聞紙に包んだ吹かし芋を2本手渡します。「映画館は寒いから懐炉だよ」

裕福な淀川君が芋なんか食べる訳がない。なので懐炉と言ったのでしょう。泣かせますねえ。で淀川君もしっかりその芋をかみしめて食べます。映画会社の広報マンのおじさんに1本あげて2人で食べました。(やっぱり男の人ですか)

この清山君から教えて貰った唄があります。淀川氏はこの唄が大層好きで、大林宣彦監督に「この唄が主題になるような映画を撮る」事を約束させていたそうです。結局、淀川氏の生前には約束が叶わず、この作品で実現したとの事。

映画少年だった淀川氏。今日は何の役?
君とは対等の友人でいたいんだ

■その他

この作品には大林監督の常連さんを含めて、びっくりするような大俳優が大勢出演されています。秋吉久美子さん、佐藤允さん、柄本明さんなど。そんな大俳優をほんのチョイ役にして、厚木拓郎君という名も無い少年俳優が主役を張る。大林さんは偉い。(ネットで本作品のレビューを見ると、宮崎あおいさんの話題ばかりなのが残念です。彼女も頑張ってはいましたが、やはり脇役の一人です。)

この映画の舞台は戦前の神戸。「Always三丁目の夕日」のようなCGやセットは皆無。見世物小屋の看板のような安っぽいセットですが、これが大林監督の味なんです。貧相なセットであっても、映画の流れがしっかりしているので、違和感なんかありません。しっかりストーリーに引き込まれます。

大林監督作品には、原作をかなり改変、デフォルメしたものがあり、賛否両論があります。でも大林監督は原作の本質は決して外していないので、一見テイストが違うように見えても、原作と同じ感動が得られるような気がします。

今年(2012年)映画化された「HOME愛しの座敷わらし」。本当に何の主張もないスカスカの映画になってしまいました。大林監督ならこんな作品にはならなかったのでは。原作の本質をきちんと理解した上で作ってくれるでしょうから。





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