奇跡 (2011年)

少年映画評価 8点
作品総合評価 7点
少年の出番 100%(主役)
お薦めポイント 鹿児島を出発する3人の少年に胸躍る
映画情報など 2011年公開/DVD発売中


2011年6月11日、梅田ブルク7(大阪)にて鑑賞。

今年、期待度最大の少年映画でした。期待していたボーダーラインは余裕でクリアする出来でした。さすがは是枝監督。決して期待に背くことはありません。でも、贅沢かもしれませんが、注文する箇所も多々あった作品でした。

■ストーリー

航一(前田航基君)は鹿児島で母や祖母と暮す小学6年生。離婚した父は福岡で弟の龍之介(前田旺志郎君)と二人で暮らしている。別れ別れになった兄弟だが、連絡を取り合ってお互いの状況は把握している。

九州新幹線が開通した初日、福岡から、鹿児島からの1番列車がすれ違う時、大声で願いを叫ぶと叶うという噂を信じて、航一と龍之介はその場所へ行くことにした。航一は同級生の佑(林凌雅君)、真(永吉星之介君)の3人でこっそり出発。そしてその場所へ到着し、願いを叫ぶが。


■心配だった前田兄弟。それは杞憂でした。

主演のまえだまえだの二人。是枝監督が絶賛していましたが、その通り、安定した演技力は子供とは思えません。お兄ちゃんの航基君の真面目さ、弟の旺志郎君の天然ぶり。兄弟ならではの二人の間の空気感も見事でした。

でも、ちょっと周りから浮いている感じが強い気がします。
・演技力(漫才で養った物怖じのなさ。自信に溢れた演技力はさすが。)
・言葉(鹿児島や福岡の地元の子も標準語風の中で、大阪弁は異質。)

そしてルックス。愛嬌のある二人なんですが、やっぱり映画というのは、夢やあこがれの対称にしたい訳です。そうでないと感情移入しにくい面があります。両親がオダギリジョーさん、大塚寧々さんという設定であれば。(せめて、もうちょっとダイエットして欲しかった。お兄ちゃん)

■林凌雅君は役不足。もっと見たかった。

この映画で最も期待していた少年俳優が林凌雅君。映画「ACACIA」で素人のアントニオ猪木さんをリードした達者な演技が今も目に浮かびます。それだけに、この映画でもキーマンの一人なんだろうと思っていました。

出演者のクレジットは前田兄弟の次の3番手。でも、思ったより見せ場がないまま終了。本当にもったいない。役不足ですよ。幼い妹と手をつないで歩くシーンは「誰も知らない」の明とゆきちゃんを彷彿。でも結局、林君の家族や、かかえる問題が描かれることはありませんでした。

奇跡を見に行った小冒険旅行から帰ってきた後も、林君のエピローグは全くなし。林君の夢、奇跡はどうなったんでしょうか。父さんがパチンコ屋に行かないように。これが彼にとっての、ささやかな奇跡。決着くらいつけて欲しいなあ。

ここからは邪推です。クレジットの3番目ですから、脚本はもっとあって、撮影もしていたのでは。でも映画の尺の関係でカットされてしまった。

ひょっとして、樹木希林さんの孫の内田伽羅さんを優先し、林君の分が飛んだのでしょうか。内田伽羅さん。少年映画ファンとしてはちょっと悔しいけれど、彼女の素質は本当に素晴らしい。なので、これなら仕方ありません。

■地元の少年、少女俳優も立派でした。

この映画は鹿児島と福岡が舞台。なので地元出身の子役も多数出演しています。その中で印象に残ったのが、鹿児島出身の永吉星之介君。ちょっと気弱だけれど、死んでしまった愛犬を抱いている姿が健気でした。また福岡県の少年、少女俳優もセリフなど自然でレベルの高さを感じました。

一つ気になったのが、子供に脚本を与えず、現場で教える手法。「誰も知らない」では、これが功を奏しましたが、本作品では違和感が残りました。「奇跡が起こせるとしたら、何がしたい」という会話を子供達が行う訳ですが、これが不自然なんです。

お芝居の最中に、いきなり役者がセリフを忘れ、雑談を始めるような居心地の悪さです。ここはドラマの流れを重視すべきであったように思います。

鹿児島と福岡組が合流。ちょっと微妙な空気感が
鹿児島の3人、ワクワク感MAX。こちらをメインに

■最後に

いろいろ注文をつけてしまいましたが、本当にさわやかな映画でした。是枝作品は1回では見落とすものがあるので、もう1回くらい映画館で見てみようと思っています。

一番好きなシーン。お兄ちゃん、林君、永吉君の3人が学校を早退し、リュックを背負って鹿児島駅の階段を駆け上っていくシーン。これから冒険が始まるんだ!わくわくして、胸がおどって、ちょっと涙さえ出そうでした。もう一回見よう。

この3人、本当に良かった。彼らだけで作品にして欲しかった




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