からっぽ (2012年)

少年映画評価 7点
作品総合評価 6点
少年の出番 100%(主役)
お薦めポイント 素っ裸で瞬時移動してしまう中学生。
映画情報など 2012年公開 DVD発売中。写真は「桐生タイムス」から主役の清水尚弥君。


2012年8月4日、シネ・ヌーヴォー(大阪)にて鑑賞。

昨年、ネットで本作品製作のニュースを見て以来、ずっとずっと見たかった作品でした。何度も書いていますが、私は少年映画のファンであり、少年俳優個人にはこだわらない事にしています。でも、本作主演の清水尚弥君は、なぜか気になる存在でした。

TVドラマにも多数出演していますし、主演映画もあるのですが、メディアからスポットを浴びることは全くなく、常に影のような存在で、それが残念で仕方ありません。髪の長い女の子のような顔立ちで、やや暗い印象ですので、健全な少年ドラマには不向きかもしれません。そんな彼も、もう高校生。中性的な魅力は、これで最後になるものと思います。

大阪に2館だけ残った独立系ミニシアターのシネ・ヌーヴォー。その2階に増設された狭い狭いスクリーンでの初回上映で、観客は5名だけ。わざわざ舞台挨拶に来られた草野翔吾監督もがっかりされた事でしょう。せっかくなので、何か感想を言いたかったのですが、できませんでした。

■ストーリー

物語の主役は高校生の加藤小判(清水尚弥君)。幼い頃、母は家出、父は事故死。一人暮しの叔父に引き取られるが、この叔父は根暗なオタク。一緒に暮してはいたが会話も殆どない様子。その叔父と暮す家も借金で追い出され、小判は全くの天涯孤独に。

学校でも全く存在感のない小判。存在感が無さ過ぎて、イジメの対象にすらならないのは、不幸中の幸いかも。そんな小判には、困った事象があったのでした。それは、気を許すとテレポート(瞬時移動)してしまう事。(これって素晴らしい特技じゃないですか)

でも、小判にとってはやっかいごと以外の何者でもなかったのです。まず瞬時移動するのは身体だけ。即ち、移動した先では全裸になってしまうこと。服は移動前の場所に残されます。次に、瞬時移動できるのは、誰も小判を見ておらず、誰も小判の事を考えていない時だけ。即ち、全く彼の存在を誰も知らない時だけです。従ってテレビで見世物にして金儲けなんてのは無理な訳です。

こんなテレポート現象をコミカルに描くうち、一人の女性シーナ(平愛梨さん)と出会います。色々裏のあるシーナは、小判の特技?を知りそれを利用し始めます。一方、地元桐生の河童伝説にかこつけて町興し活動も始まり、それらが入り混じってドタバタ劇の展開に。

大騒動の末、小判は自分の存在価値を見出し、もうテレポートする事もなくなったように見えました。これでメデタシ終了かと思うと、最後にもう一つ。これは映画を見てのお楽しみに。最終カットの清水君の笑顔。これが子役時代に戻ったような幼い表情で、大変可愛いかったのです。

沖縄国際映画祭にて。お洒落?
と思ったらシャンプーハット
■清水尚弥君。美しい顔だけで十分。裸は不要

ヒロイン役の平愛梨さんに注目が集まるようですが、何て言ったって主役は清水尚弥君。映画全編を通して彼がメイン、彼の顔がアップで映ります。

さすがにもう高校生、アップになると「青春のシンボル」も目立ち、透き通るような肌ではありませんが、アングルによっては、はっと目を見張るほどの美しさ。この美しさは、女優の平さんでも決して及ばない感じがします。

しかし裸はいけません。少年の瑞々しさもなく、青年の逞しさもなく、貧弱な身体。まるで連合軍に解放された直後のアウシュビッツのユダヤ人(不穏当な表現ですみません)のような痛々しさを感じます。

ネタとして全裸になるのは面白いのですが、もう少しうまく使って欲しい。全裸姿よりも学生服、体操服ジャージ姿の方が何倍も美しいのです。少年美というのは雰囲気だけのもの。それを剥ぎ取って実体を見ても仕方ないのです。

■映画前半は名作ですが。

さて映画全体の出来ですが、地方振興映画(いわゆるジモティー映画)の宿命をもろに受け、残念な部類の映画になってしまいました。誰からも相手にされない「からっぽ」な人生を歩む少年と女性。ものすごくいいモチーフなのに。

なぜ、カッパ騒動のドタバタを絡ませないといけないのでしょうか。観光地紹介、それが地元振興に役立つのでしょうか。そんな表面的なものでなくて、しっとりとした真の名作にして上げた方が、その映画の地元に何百倍も貢献するような気がします。(大林宣彦監督の「尾道」がいい例では。)

せっかくの大杉漣さんをもっと重要な役にして、小判やシーナを再生にもっていくキーマンに出来なかったのでしょうか。その中で地元 桐生市の風景がさりげなく使われる。そんな風に作ればもっと感動的な作品になった気がします。(偉そうに言うな!ハイすみませんでした。)

また恒例の辛口になりましたが、それでも素晴らしい映画には違いありません。是非多くの人に見て欲しいものです。

少年なのに、もう人生に疲れた顔をして
裸を隠す雑誌。意外に体毛が濃いのです




▼イーストエンド劇場へ戻る   ▼少年映画第2部へ戻る