少年H (2013年)

少年映画評価 7点
作品総合評価 6点
少年の出番 100%(堂々の主役)
お薦めポイント 懐かしい神戸の風景と少年の純真さ
映画情報など 2013年公開 DVD発売
(写真は少年Hを演じた吉岡竜輝君)


2013年8月11日、布施ラインシネマ(大阪)にて鑑賞。妹尾河童氏の自伝的小説の映画化との事で、かなり前からプロモーションしていたようですが、今一つ期待していませんでした。製作が東宝+テレビ朝日、それに主演が水谷豊さんと聞けば、昨年の「HOME 愛しの座敷わらし」の大はずれをどうしても思い出します。

でも大阪の暑さに耐え切れず、映画館での避暑も兼ねて本作品を鑑賞することに。東大阪にある、少し穴場的なシネコンですが、この手の映画の割りには、そこそこ観客がいました。(皆さんも避暑かも)

■ストーリー

太平洋戦争の足音が近づく時代。神戸の下町で暮す少年 妹尾肇(吉岡竜輝君)は、洋服仕立屋を営む父(水谷豊さん)、母(伊藤蘭さん)、妹の4人家族。母の手作りセーターには、大きくHとイニシャルがあり、肇はみんなからHと呼ばれるようになった。

腕の立つ職人である父は、神戸に住む多くの外国人から贔屓にされ、商売は順調だった。肇は父と外国人の家をまわるのが好きだった。しかし時代は風雲急を告げ、神戸の外国人は次々と帰国。「ぜいたくは敵」になり、洋服を作ることも難しくなった。やがて開戦。

近所のうどん屋の兄ちゃんはアカ狩りで検挙。女形だった兄ちゃんは招集を拒否して自殺。外国人と交流のあった父も特高警察で調べを受ける。戦況は厳しくなってきた。暗い時代の中で、父の存在が家族の頼りだった。自分の信念はきちんと持つが、他人のことも尊重し、形式には捉われる必要はない。これが父の教えだった。

クリスチャン一家であるが「踏絵なんか無理せんと踏んだらいい。でも恥ずかしい人間にはなったらあかんよ」など、父の言葉が心に沁みる。昭和20年3月、神戸大空襲。父が一人で築き上げてきた店も焼け落ちてしまった。幸い家族は無事だったが、命の次に大事なミシンも壊れてしまった。

やがて敗戦。中学生になっていた肇は、世の中の変動を素直に受入れることができない。あれほど頼もしかった父も、まるで腑抜けのようになってしまった。

■しっかりした脚本、水谷豊さんのはまり役

期待していた以上に、映画はしっかりとした出来で、画面への集中力が途切れることはありませんでした。丁寧な脚本もさることながら、やはり水谷豊さんのキャラクターが、この作品にぴったりマッチしたことが最大の成功要因ではと思います。

関西弁(神戸弁)はお世辞にも上手いとは言えませんが、身長の低さなど(徴兵検査は「丙種」のため召集不適)をうまく利用しながら、奢らず、かといって卑屈にはならず、理想的な父親像を演じていました。この役は、水谷豊さん以外に、ちょっと見つからない感じがします。

■少年Hも手抜きなし。吉岡竜輝君

水谷豊さんの好演が目立ちましたが、本作はあくまで「少年H」。肝心の少年Hがダメなら映画にはならないはずです。その点も、吉岡竜輝君が素晴らしく演じてくれました。10歳から13,4歳の思春期までを一人で演じるのですから、それは大変だったと思います。実際に成長したと錯覚しそうです。(身長を除いて)

これはベテラン降旗康男監督の手腕が大きいと思います。パンフレットを読むと、吉岡君にはかなりの演技指導をしたようです。主役なのですから当然といえば当然ですが、いい加減なサラリーマン監督では、こうはいきません。大物俳優や女優ばかり気を使って、子役(特に少年)なんか手抜きされてしまいます。

言論統制が厳しくなり、こっそり外を見る
とうとう神戸の街にも大空襲が

■今の時代こそ、この映画を見て欲しい

反戦とか左寄り(朝日新聞系列の製作)などとのコメントも見ました。右とか左とかに捉われず、大勢に押し流されるのではなく、何が本質なのか、この映画の父親みたいな人が増えて欲しいように思います。

政治的な話はもう止めにして、本作品で気に入ったのは、往年の神戸市電が走るシーン。路面電車オタクの私としては、CGでも嬉しいところです。父親と少年Hが市電に乗るシーン。さりげないのですが、本当に絵になります。ヨーロッパの街のようで。実際には神戸を路面電車が走ることは、もう二度と見れないのでしょうけれど、映画の中だけでも見れて幸せでした。

他にもう2つのアイテム。1つはミシン。かつてはどこの家庭にもあったようですが、大量消費時代と女性の社会進出もあり、自宅で裁縫することは無くなったものと思います。映画の中で、壊れたミシンが動き出すシーンは、戦後の希望の象徴のようでした。(この映画を見てミシンが欲しいと思った人もいたりして)

もう1つは蓄音機。うどん屋の兄ちゃん(小栗旬さん)の3畳ほどの狭い部屋に招待され、コーヒーをご馳走になりながら、洋楽のレコードを聴く。少年にとって夢の空間みたいなものに違いありません。この狭い部屋が印象に残りました。





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