楽隊のうさぎ (2013年)

少年映画評価 7点
作品総合評価 6点
少年の出番 100%(堂々の主役です)
お薦めポイント 寡黙な少年の視線。やがてブラスバンドに
映画情報など 2013年公開。DVD発売中
(写真は実質主役の川崎航星君)


2013年の少年映画(鑑賞)の最後が本作です。中沢けい氏の原作小説は読んだことはありませんが、中学校の吹奏楽部に入る男子生徒との話は、うっすらと知っていました。あまり先入観を持ちたくないので、公式サイトや解説などを避けて、頭を空白にして鑑賞。

■ストーリー

舞台は静岡県浜松近くのある町。中学に入学したばかりの奥田克久(川崎航星君)は、みんなが部活動に希望を持っているのに、全く関心がない。他人と一緒にいるより一人でいるのが好きな少年だ。

ある日学校の廊下で、変なウサギを見つける。不審に思って後をつけると、そこは音楽室で、吹奏楽部の新入希望と間違われ、そのまま練習に参加することに。「嫌」と言えない性格の克久は、そのまま惰性で入部。何の経験もないので、パーカッション(打楽器)パートに配属されるが、音楽の才能がある訳でなく、かといって一番大事な熱意もあるとはいえない。

なので、その年のコンクールのメンバーからは外されてしまう。さすがにショックを受け、辞めようと考えた時に、またあの変なウサギが出現。それに鼓舞されるように、克久は部活を続ける。それ以降も、何か壁にあたったような時には必ずウサギが現れる。

先輩が部活動を卒業すると、克久は顧問の先生(宮崎将さん)に、打楽器の中でも最も目立つティンパニーをやらないか、と言われ、初めて自分の意志を示した。「やります。やらせて下さい」やがて1年後、中学の定期演奏会の舞台に立つ克久。それを見守る両親。さて演奏はうまくいくのでしょうか。


顧問の先生は、下手な克久を演奏会から外すが、心配りは忘れない
■吹奏楽、ブラスバンドは女の世界か

中学や高校の吹奏楽部といえば、女子生徒メインになってしまっているというイメージがあります。実際にマーチングバンドの大会を見ても女子8割以上の学校が大半。少年少女合唱団の男女比よりはマシでしょうけれど。(近くに淀川工業高校という吹奏楽の伝統校がありますが、ここだけは例外)

映画でも「スウィング・ガールズ」(2004年)がヒットしましたし、吹奏楽関連のドラマとなると男子部員の影が薄い感じがして、本作品もどうかな、と一抹の不安もありました。

しかし本作品は、原作小説があるせいもありますが、徹頭徹尾、あくまで克久という男子中学生が主役。女子に圧倒され、影の薄い存在だった中学生が少しずつ成長していきます。物語は大きな起伏もなく、まるでドキュメンタリーのように淡々と進みますが、その手法が却って、爽やかな感動を呼びました。「吹奏楽部っていいな」と思わせてくれます。

それにしても、映画は、克久役を演じた川崎君の独壇場といっていいものでした。映画のチラシを見た時は、各楽器パートのメンバーに少しずつ焦点を当てた(よくドキュメンタリーにあるような)群像劇的な内容かと思っていたのですが。

これはある意味、嬉しい誤算です。それにしても川崎君のアップが多いこと。そのカメラに十分に応えることのできる美少年。ただ童顔に似合わない太い声なのが、やや残念といえば残念。もう一つの不満はパンフレット(700円)やチラシ。実際の映画では100%主役の川崎君が、その他大勢の扱いになっています。

これは、(この映画の舞台となった架空の)花の木中学校吹奏楽部員「全員」で作った物語ということを出すために、あえて全員を公平に名簿順のような記載にしたものと思われます。その意図はよく判るのですが、やはり主役は主役。もうちょっとページを割いて欲しい。

またチラシの川崎君の写真も、もう一つ冴えません。美少年には違いないのですが、愛知県など東海地方出身なのでしょうか、NHK「中学生日記」に出てくるような、ややイモっぽさも感じたりして。

こうなったら、もう一つ細かいこと。川崎君の学生服の第1、第2ボタンの間に「シミ汚れ」があるのです。ピッカピカの新入生ですから綺麗な服を着て欲しい。しかも1年後の中学2年生になった設定なのに、シミ汚れはそのまま。これは手抜きではありませんか、衣装さん。(姑さんの嫁いびりみたいですみません)

■ウサギは誰のところにやってくるの

映画のタイトルのウサギですが、中学生が挫折しそうになった時に、助けるように出現。その姿は本人にしか見えないようです。なぜ克久の前にだけ現れたのでしょう。克久と幼なじみの同級生の守(百鬼佑斗君)は、サッカー部に入りますが、挫折して酷い目に合い、不登校に。彼にもウサギが来てくれたら。

楽隊のウサギなので、楽隊と関係ない子は知らん?のかもしれません。まあ守の性格にも問題があったので仕方ないのかも。守役を演じた百鬼君(怖い姓ですね)は、まだ変声前の少年ぽさが印象に残りましたので。一方ウサギですが、不思議の国のアリスのようなCGではなく、おば様ウサギでした。

町田君と克久。なかなかいい関係
守には、うさぎがやって来ない

■映画のもう一人のキーマン、宮崎将さん

本作品で印象に残ったのは、吹奏楽部の顧問の先生を演じた宮崎将さん。いかにも音大か芸大を卒業したものの、演奏家としては挫折したような若い先生ですが、これがいい味を出していました。

特に印象に残ったのはコンクール当日、本番の直前、緊張する部員の隅で、寂しそうにしている克久ともう一人の補欠部員に「そこの二人、こちらへ来て」と呼びよせるシーン。

二人にかけた言葉は、どうってことないものですが、こうやって補欠にも声をかけてくれた事自体に、自分の過去を思い出して、なにか涙が出そうになりました。
実は私も中学時代、軟式テニス部に入り、苦しい夏休みの練習を1日も休まず頑張ったのに、秋の新人戦は出れず。顧問の先生は、声どころか全く見もしてくれません。あの時、先生が配慮してくれていたら、私はテニス選手になっていたかも。いやいや、そもそも実力が無かっただけ。

私の勝手な感傷はおいといて。それにしても宮崎将さんイケメンですね、と思ったら、女優・宮崎あおいさんのお兄さんだったのですか。そう言われれば顔が似ております。でも、いつまでも「宮崎あおいさんの兄」といのは可哀想。妹さんに負けない存在感のある役者さんだと思います。

■舞台挨拶
鈴木卓爾監督と大原光太郎君

大阪のシネ・ヌーヴォーでの公開初日(2013.12.28)、上映修終了後に、鈴木卓爾監督と、町田部員役の大原光太郎君の舞台挨拶がありました。

大原君は兵庫県出身、オーディションに合格。映画では関西人らしくムードメーカー役でしたが、撮影現場には最初は馴染めなかったとの事。色々な阻害感があったそうです。

実際に演奏が出来る生徒が中心ですので、劇団所属の生徒は楽器が出来ず阻害感。楽器ができる生徒も演技は初めてなので阻害感。静岡や愛知在住者が中心ですので関西出身者は阻害感。それが無くなって一つになった時、映画が完成したのでしょう。

舞台挨拶では「写真撮影は自由です。どんどん撮ってブログやツイッターで映画を宣伝してください」とのアナウンスがありました。本当にたまたまですが、デジカメを持っていましたので、慌てて撮影。遠慮してストロボは発光させませんでしたので、やや画質は悪いです。

皆様もお近くで上映されましたら、是非ともご覧下さい。昔の中学や高校時代を思い出して、静かな感動に包まれる作品だと思います。





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