僕はもうすぐ十一歳になる。 (2014年)

少年映画評価 7点
作品総合評価 5点
少年の出番 100%(堂々主役)
お薦めポイント 主役の濱田響己君の目の演技
映画情報など 2014年公開/DVD未発売
(写真は主役の濱田響己君)


2014年3月12日、シネ・ヌーヴォー(大阪)にて鑑賞しました。

第9回大阪アジアン映画祭のインディ・フォーラム部門に出品された作品です。この映画祭は大阪で既に9回目の開催という事ですが、これまでは全く視野に入っていませんでした。ひょっとすると、これまでの8回の中にも、優れた少年映画があったのかもしれません。

ちょっと後悔する気持ちもありますが、済んでしまった事を悔やんでも仕方ありません。今回は「ぴあ」のサイトで前売券を購入。整理番号は15。仕事を15:00で早退し、ゆっくりと九条のシネ・ヌーヴォーへ。小さな映画館の前には、本作品の出演者がおられるではありませんか。この話は後でするとして、期待を胸に映画館へ。

■ストーリー

主人公は、10歳の翔吾(濱田響己君)。趣味は昆虫採集と標本作り。学校のクラスでは「変人」で通っている。翔吾の父はインドへ単身赴任中で、母と二人暮し。父も昆虫採集が趣味で、立派な標本ルームを持っているが、父が帰国した時しか入らせて貰えない。

冬休みが始まった。今日も虫取りセットを持ち、一人で林に入っていく翔吾。そんな翔吾に興味を持ったのは、カナダからの帰国子女の花音(紫英さん)。「私をあなたの助手にして」と、欧米風にストレートにアタックしてきた。戸惑いながらも、彼女と一緒に行動することに。

やがて年末休暇で父が帰国。久し振りに父の標本ルームへ入れると喜ぶ翔吾。でも父の様子が変だった。「昆虫標本作りは止めた。ここは翔吾の部屋にしていいよ、鍵を渡そう」それだけでなく、食事も肉や魚は一切食べない。

父が話してくれた。インドからブータンへ行ったんだ。そこで「命」というものを考えさせられた。お父さんが採集した昆虫たちも、何かに生まれ変わっていると思うんだ。でも昆虫採集(殺生)を止めろとは言わない。

よく判らない翔吾だったが、大晦日にお祖父ちゃんの家へ。亡くなったお祖母ちゃんの仏壇、骨壺、それらに語りかけるお祖父ちゃんの言葉。そこに寄ってくるテントウ虫。「命」って何だろう。翔吾は翔吾なりに考え、そして理解した。命ってものを。

監督に肩を抱かれる
■リーンカーネーション(輪廻)

インディーズ映画の特徴かもしれませんが、淡々とした作品。転生というとオカルトっぽい感じですが、そうではなく、人間の内面への旅(インナートリップ)がモチーフだと思います。

上映後の挨拶で、若い監督の神保慶政さんは、実際にブータンへ旅行されて、何か感ずるものがあり、それをモチーフにされたような事をおっしゃられていました。

日本人のブータン好きについては、他のレビューでも言及しましたが、若い人の間でも人気があるのかもしれません。実際には虚像の部分もあるんでしょうけれど。原発事故、世界的な経済の行き詰まり、こんな時代にこそ、もう一度「ほんたうの幸ひ」とは何か、見直すことが必要なのかもしれません。

本作品のテーマは素晴らしいと思うのですが、それだけに残念に思うのが、大人の出演者たちの演技の未熟さ。特にキーマンとなるのは、お父さん役。容姿は本役にピッタリですし、動作なども問題ないのですが、セリフの拙さだけはどうしようもありません。

本格的な演技経験のある方ではないのだろうと思います。大変よく頑張られたとは思うのですが、聞いていて、ものすごく肩が凝るのです。不自然なのです。ひょっとすると大阪弁が苦手なのかもしれません。ここをアフレコで撮り直して貰う訳にはいかないのでしょうか。(本作品は英語字幕付き。日本語セリフの不自然さが関係ない海外では受けるかもしれません。)

父が帰ってきた。久し振りに両親と川の字で寝る
撮影中の一コマ。真剣な表情

■映画を救った少年俳優、濱田響己君

淡々として、心に響くはずの映画ですが、大人の出演者がガチガチの演技の中で、小さい子供なのに、ひとり自然な演技力で差を見せつけてくれたのが、濱田響己(ひびき)君でした。

最初は、昆虫オタクの少年そのものかと思いました。関西の大人気番組「探偵ナイトスクープ」には、よくこの手の少年が登場します。聞いた事もないような「珍虫や動物を見たい」と依頼してくる少年です。マニアというよりも偏執狂(すみません)です。

序盤は、共演した帰国子女役の紫英さんに引っ張られるような部分もあったのですが、中盤以降は、どんどん存在感を増し、特に目の演技ができる少年俳優さんだと思いました。本人は意識していないのかもしれませんが。

やや細めの鋭い「ナイフ目」をさっと流す、小悪魔的な視線が印象に残ります。かと思うと、大きく見開いたりして、感情の揺れを表現しているでしょうか。ラストシーン。何かを悟った翔吾は、花音を連れてモノレール(大阪の)に乗り、少し人里離れた渓流へ向かいます。石を拾って祭壇を作り、祖母の弔いのようなことを。

「少年少女がモノレールに乗って弔いに」これはあの名作「誰も知らない」のラストと同じ。パクリ、いえオマージュなのかもしれません。上映後の監督さんへの質問時間に手を挙げようか迷っているうちに、時間オーバーでした。

■映画館での様子など

右の写真は、上映前の映画館前の道にいる濱田響己君と花音さん。最初は気付かずに、近所の子供が見に来ているのかなくらいに思っていました。

濱田君は、映画出演時と全く同じような年格好。10歳未満にしかみえません。撮影して半年も経っていないとの事で、出来立てホヤホヤの映画、まさにワールドプレミア上映なのでした。

しかし実際には、小学6年生とのことで、もう1ヶ月もすると中学生。どおりで落ち着いているのが納得。しっかり演技が出来るのにも納得です。(※「ひびき☆ingのブログ」というブログより。)

シネ・ヌーヴォーでの舞台挨拶ですが、司会の方は、監督さんしか紹介せず、そのまま質疑(ティーチイン)を開始。えっ主演の濱田君の挨拶は?

最後に時間が無くなったところで、出演者の挨拶。それも大人の出演者から。最後が濱田君、本当に一言だけ。堂々の主役なのにこれはないでしょう。司会者さん、もうちょっと考えて下さいね。

映画祭のパンフレット1000円を買うと、監督さんや出演者のサインを貰えます、とのアナウンスがあり、混雑するロビーでパンフを買い求めましたが、監督、子役さんの周りには、何人かの方々がおられて、気の弱い私は、サインをお願いすることが出来ず、断念して帰りました。悔しいので、九条商店街の居酒屋に寄ってしまいました(関係ないか)

それは置いといて、主演の濱田君、まだまだ2年くらいは少年俳優を出来そうです。もう1作くらい主演映画が欲しいものです。それにしても日本人少年はシャイですね。対照的なのが紫英さん、彼女は舞台挨拶でも英語でした。完璧なネイティブEnglish。人々の輪の中でも必ず真ん中にいるような感じ。

セリフがぎこちない、なんて辛口も書いてしまいましたが、大きな問題ではありません。是非、本作品が全国各地で上映され、BDやDVDが発売されることを祈っております。





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