なつやすみの巨匠 (2015年)

少年映画評価 7.5点
作品総合評価 6点
少年の出番 100%(堂々主役)
お薦めポイント 映画作りへの情熱とリトルロマンス
映画情報など 2015年公開。DVD等未発売
(写真は、主役の野上天翔君)


2015年も半分を過ぎて、やっと公開された本年最初の邦画少年映画です。福岡県のローカル作品であり、全国公開される見込みも薄いため、博多まで遠征して鑑賞しました。新幹線往復代は高かったけれど、それをちっとも惜しいとは思わない、佳作少年映画でした。おりから博多山笠の熱気に包まれており、福岡のパワーを感じました。

■ストーリー

福岡市からフェリーで10分の能古島に住む小学生シュン(野上天翔(たけと)君)が主人公。タケちゃん(東倫太朗君)、ノブ(永江蓮君)の3人で「ズッコケ3人組」みたいな悪戯を繰り返していた。

ある日、シュンは父の古いビデオカメラを貰った。当時100万円?以上もした本格的なカメラシステム。その日からシュンは映画監督を目指して、3人組で映画の撮影を開始した。しかしヒロインの女優がいない。

そんな時、うまくしたもので(映画ですから)外国人のような、とびっきりの美少女ユイ(村重マリアさん)が島へやってきた。事情があって島に住む祖父の家へ引き取られたのだ。シュンはユイに一目惚れ。強引に映画のヒロインにしてしまった。ユイは反発しながらもシュンの熱意にひかれていき、二人の間に小さなロマンスが芽生える。

しかしユイの父親は違法滞在のブラジル人で、国外へ強制送還命令が下されており、それに絡んでヤクザがやってきたり、その子分のチンピラ(落合モトキさん)を騙して大けがをさせたり、と悶着を起こす。

やがてユイが島を去ることになった。落ち込んで何をする気力もなくなったシュンだが、最後の別れの時に、少年ながら一世一代の仕掛けを作ることにした。

■まるで「ジャック・ドゥミの少年期」

本作品には、いくつかのテーマというかモチーフがあるようですが、一つはリトルロマンス。もう一つが「映画作りへの情熱」だろうと思います。

父のカメラを貰って映画の道に志したのは、実体験だったと脚本家の方が舞台挨拶で述べられていました。ちょうど少し前に見たフランス映画「ジャック・ドゥミの少年期」と同じ(もしかすると、ジャックドゥミへのオマージュかも)

しかし現実問題、映画に出てきたSONY製のビデオカメラはいただけません。このビデオ規格の低画質で作品を作っても、将来性はゼロに近いのでは。まだ8mmフィルムの方がましです。

映画の中でも「安いスマホでも、はるかに高画質で編集機能も上だ」と言われて、シュンは頭に来ます。でもその通りなんだから仕方ありません。(SONYさんに何か貰っているのかもしれません)

■子役のバランス

何か意味ありげな見出しになりました。本作品ヒロインの村重マリアさんは、ロシア系ハーフということで、まだ10歳とは思えないほど、本当に美しいのです。アップになった顔は、美術館の絵のような荘厳さ、神々しささえ感じます。

日本映画で(めったにないのですが)少年少女のロマンスが描かれる場合、少女役は必ず美少女ですが、少年役は普通の子ども(「ドラえもん」の、のび太君のように)といったバランスでした。

これはこれで構わないのですが、美しさというものは、(少女)>(少年) であることが、天の摂理であるかのように主張されているようで、少年映画ファンとしては、割り切れない感じがしていました。

本作品の主役を演じた野上天翔君は、ヒロインの村重マリアさんと並んでも、見栄えで劣ることはない、チャーミングな少年でした。その意味で、より感情移入ができて、深く映画に没入できたと思います。

父から貰った古いビデオカメラ
イケメンのタケちゃんもカメラマン

■単なる子ども映画から、意外な展開へ

野上天翔君に関して難点が一つ。セリフが聞き取れないのです。常にハイテンションで、叫ぶようなセリフ回し。おまけに博多弁ですので、字幕が欲しいくらい。またヒロインの村重マリアさんのセリフも同じ。この調子で2時間が続くのかと思った時は、正直いって失敗作かなと思いました。これは、野上君など子役のせいではなく、そんなセリフ回しを演出した監督さんの問題ですね。

しかし次第にセリフにも慣れてきて、リリー・フランキーさん演じるヤクザや、落合モトキさん演じるチンピラ青年が絡んでくると、ストーリーも大きく展開し、最後は感動させてくれました。欲をいえば、主役二人の淡いロマンスに加え、少年3人組の友情にもっとフォーカスしてくれたら、満点だったと思います。

■舞台あいさつ(公開2日目)

さて舞台挨拶について。写真撮影は自由でした。ネットに掲載するのもOK。逆に「facebookなどで画像を掲載して映画を宣伝して下さい」と言われたくらいです。

この回の挨拶では、主役の野上天翔君、ヒロインの村重マリアさんが不在でした。そこで今回は、タケちゃん役の東倫太朗君が、子役代表の位置にいました。

もう13歳と子役の中ではかなり年長なので、セリフも演技も安定感がありました。まだ声もボーイソプラノで、主役の野上君とは違った、正統派少年俳優の魅力を持っています。映画では、主役の二人に比べると、扱いが小さいのが残念で、もったいない気がしました。

舞台挨拶では、監督さんが「◯◯だったね」と東君に水を向けるのですが、それに反応できず沈黙。ちょっと白けた空気が流れました。これでは、映画の中のタケちゃんと同じですよ。「いつも逃げてばかり」と言われないように、もう少し頑張って下さいね。

一方、挨拶で、きれいな声で、堂々と歌を披露してくれた子役さんがいたのですが、映画本編では出演シーンを確認できませんでした。これはもう一度鑑賞しないといけません。なんとか大阪も含めて全国公開して欲しいものです。





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