望郷 Homesick (2018年)

少年映画評価
作品総合評価 B+
少年の出番 60%(出番は多くはありませんが強烈な印象)
お薦めポイント 座敷童子のように可愛くて優しい少年の幽霊
映画情報など 2018年、広島国際映画祭で上映。Vimeoで配信あり。
写真は生駒星汰君。


広島国際映画祭の短編部門で上映されたそうですが、そもそも広島国際映画祭の存在すら知りませんでした。毎年広島には行くのに。本当に迂闊でした。ある子役ファンの方のTwitterに、本作品の配信の事が記載されており、何気なく視聴して本当に感動しました。27分の短編ですが見応え十分。

監督は嘉村荒野さん。日仏のハーフとの事ですが、生まれも育ちもフランス(大学時代だけ日本)で日本語はカタコトだけ。ですので本作は、俳優は日本人、スタッフはフランス人中心の作品です。キャストのトップに、SHOUTA IKOMA と少年俳優の名があるのが嬉しい。

父の車は息子である少年をひとり残して帰っていった。ここは放射線の警戒区域。なんて酷い父親だ!
(でも少年は別の世界で生きていたのです。)

東北大震災から2年。仮設住宅で暮す男(永岡佑)は、住民の依頼を受けてボランティアで警戒区域に入って思い出の品などを持ち帰っていた。男に家族はいない。もう応答する事の無い妻の携帯電話に毎日電話をかける。警戒区域に入ると、どこからともなく8歳の息子ジュン(生駒星汰)がやって来る。

被爆許容時間ギリギリまでジュンと一緒に過ごす。そして男は一人で帰って行く。息子のジュンは震災で死んでいたのだ。被爆と不摂生な生活で衰弱していく男。ジュンの宝物だったボールがやっと見つかった。ジュンは言った。お父さん、僕を愛しているなら、もうここへ来ないで。


防護服と防毒マスクに身を固め、放射線カウンターを装着した男が、廃墟のような家の中に入って行く。そこへいきなり少年がキャキャっと笑いながら出てきた。うわっ!ホラーかと一瞬身構える。何の防御もないハーフパンツの男の子。なんだジュンか。脅かすなよ。

イチロー選手の51番のトレーナーを着て無邪気に笑う少年。全く普通の親子の会話をしながら、区域の出口まで歩いていく。そして男は車に乗り込む。当然少年も助手席に乗るのかと思ったら「それじゃまた」と少年を置いてけぼりにして去っていく。ここでやっと気づく。少年は幽霊だったんだ。

ジュンの宝物はイチロー選手のサイン入りボール。これが見つかるまで男は警戒区域に入り続ける。父の身体を心配したジュンは父を廃遊園地へ連れて行く。そこにボールがあった。これで、もう来ないで。

仮設住宅の住民が亡き人を偲んで灯籠流しの日。男は灯籠を持って一人で警戒区域へ。ジュンと2人で灯籠を流した。父はいきなり防毒マスクを外してジュンを抱きしめる。もう生きて帰るつもりはなく、息子であるジュンの世界へ行くつもりだったのでしょう。

本作品で一番感動したシーンはその直後。外れたマスクをジュンが父につけ始めたのです。お父さんは生きて。そんな風に。優しい息子じゃないですか。でも決してお涙頂戴に見えないのが素晴らしい。

ジュン役の生駒星汰君がとにかく可愛い。はじける笑顔。幽霊なのに暗さや湿っぽさは全く無し。本作がフランスで上映されたかどうか判りませんが、彼の笑顔のチャーミングさがフランスでも通用したら...なんて思います。※追記 2021年にフランスとドイツでテレビ放送されたそうです。肝心の日本では放送や上映どころか、情報すら無いのが残念。)

廃屋のような家。急に少年が飛び出してきた。
満面の笑顔で。なんだジュンか。脅かすなよ。
父は頼まれて、帰還困難な家の中で探しもの。
息子のジュンがいると、なぜかすぐに見つかる。


廃墟になったバッティングセンターで。
ジュンはイチロウ選手のファンの大ファンだった...
ある日、ジュンは父の手を引き、ある場所へ。
そこにはジュンの宝物。イチロウ選手のサインボール。


父は息子のジュンを抱きしめる。
ジュンは父の健康が心配。もう来ないで。
灯籠流しの日。父はまた警戒区域に来た。
ジュンと母のための灯籠だ。


父はいきなり防護マスクを外した。
もうジュンたちと一緒にいたいんだ!
ジュンはそっとマスクを付け直した。
お父さんには生きていてほしい。


この灯籠が流れたらお別れ。こんな目の演技ができるのは大したもの。


※後記
東北大震災で亡くなった少年が登場する映画といえば、2021年『護られなかった者たちへ』もそうです。阿部寛さん演じる主役の息子役を川口和空君が演じていました。でも息子の登場シーンは映画序盤の1カットだけ。津波に流された息子の形見は腕時計。父が買ってあげたもの。川口君もジュンのように幽霊になって登場して欲しかった。

ここでは触れませんでしたが、本作には同じく家族を亡くして避難している女性が登場します。主人公の男性に依頼して一緒に警戒区域内のお墓へ入っていきます。彼女は主人公に惹かれるものを感じ、二人は新しい生活を始めていきそうな余韻を残して映画は終わります。27分という短さがもったいない。




▼イーストエンド劇場へ戻る   ▼第2部トップへ戻る