秋立ちぬ (1960年)

少年映画評価 B+
作品総合評価 B+
少年の出番 90%(主役)
お薦めポイント まだ戦後の影も残る東京の街並み
映画情報など 1960年公開。DVD発売中。
写真は大沢健三郎君。


成瀬巳喜男 監督作品。成瀬監督といえば高峰秀子さんなど、女性映画専門という印象しかありませんでした。作品は殆ど見た事がなく、あまり関心もありませんでしたが、本作「秋立ちぬ」は唯一と言っていい少年俳優が主役の作品との事です。

2022年になって東宝DVD名作セレクションの1作としてDVDが発売。ようやく鑑賞出来ました。モノクロですが、東宝スコープの超ワイド画面の豪華さ。最初の印象は3部相当でしたが、やはり昭和の名作の一つですので、2部に上げました。(本レビューは「東宝スコープ」に敬意を表して、全てワイド画面で掲載)

順子と秀男。銀座のデパートの屋上から海が見える。秀男は長野育ちで海を見た事がなかった。

父を亡くした12歳の秀男(大沢健三郎)は母(乙羽信子)と二人で東京に出て来た。母は女中として旅館に住み込み、秀男は伯父の家に預けられた。寂しい秀男の心のよりどころは故郷長野から持ってきたカブトムシ。母の働く旅館の10歳の娘である順子(一木双葉)とも仲良くなった。兄妹というより幼い恋人のように。

従兄(夏木陽介)も秀男をバイクに乗せるなど優しい。しかし母が旅館の客と駆け落ち。落ち込む秀男を順子は海へ行こうと誘う。しかし怪我をしてパトカーで帰ってくる羽目に。ますます肩身の狭くなる秀男。従兄に約束を破られ、順子に会おうと旅館へ行くが、順子たちは引越して、もぬけの殻。秀男はただそこに佇むだけ...


主人公の秀男は成瀬監督の少年時代をモチーフにしたそうです。そのためかどうか判りませんが、少年に思い入れもなく、美化もせず、淡々と描いているように思います。自己顕示欲の強い方なら、ワシは少年時代から飛び抜けたところがあったんじゃ・・・とばかりにギラギラとした脚本になるでしょうけれど。

大人の身勝手に流されていく。母も従兄も順子ちゃんも。みんな自分の前から去っていく。ただ悲しそうでな目をして運命に堪えるだけ。いかにも日本人的な少年(ちょっと変な表現ですが)。でも私はこんな少年の方が惹かれます。欧米の自己主張の強すぎる少年たちよりも。

しかし映画の主役感がやや薄いのは確かです。一方で順子ちゃん。演じた一木双葉さんは幼いながらも顔の整った超美少女。彼女も実は不幸な境遇なのです。母親はいわゆる2号さん。お父さんは月に数えるほどしか来ませんが、お金持ちなので、順子ちゃんも自由奔放に育ったのでしょう。

主役の秀男少年が内面的過ぎて目立たないために、順子ちゃんの方が魅力的で印象に残るかもしれません。このあたり、やっぱり成瀬監督は女の子好きなんでしょうね。でも秀男役を演じた大沢健三郎君は、この後も成瀬監督作品に使われていますので、彼ももまたお気に入りだったのかもしれません。

大人の俳優では母親役の音羽信子さん。結構大胆な恋に生きて駆け落ちまで。BGMを聞いているとイタリア映画みたいな気分に。不倫相手役は加東大介さん。『七人の侍』で槍の名手だった事しか覚えていませんが、誠実な人間かと思っていたので、少しイメージが違いました。

昭和といっても、これだけクラシックな映画はなかなか見る気力が湧きませんが、DVDも比較的安価で販売されていますので、是非一度ご鑑賞になって下さい。

秀男と母(音羽信子)は東京へやって来た。まさか母がこのまま住込みで旅館に行くとは...
 

伯父の家。秀男をどこに寝かせるんだ。従姉「私の部屋は嫌よ」来た日からヤッカイ者扱い。
従兄の部屋で寝る事に。布団の中で思わず涙をながした。

秀男が泣いているのをみた従兄(夏木陽介)。くよくよするな。よしドライブに連れてってやろう。
(ヘルメットなんて無し。秀男はなんと下着姿では)

銭湯でイジメられる秀男(左端)。水鉄砲で水をかけられたが、この後、反撃する。
(日焼けしてパンツの跡がくっきり。これが昭和少年ですよ。『とんび』のスタッフさん。)

母が駆け落ち。落ち込む秀男を順子は海に誘う。お嬢様はタクシーを平気で使う。
ジャイアンツの野球帽。照れくさい顔。少年らしくていい。順子は本当に美少女。

当時の東京。こんな波が打ち寄せる浜辺があったんですね。
浴衣の裾をめくる順子が色っぽい。少年映画ファンだけど、女の子もいいなあ。

夏休み中にあげると約束したカブトムシ。喜びいさんで順子の家である旅館にやってきたが。
旅館は人手に渡る事になり、既にからっぽだった。ただじっと佇むだけ。


※後記
オリンピック前の東京の銀座。都電やデパートの風景が非常に興味深いのです。晴海にはまだ波が打ち寄せる浜辺まであったとは。銭湯で騒ぎ回る子どもたち。隣の女湯から「うるさい!」と怒鳴られる光景。こんなのも日常だったのですね。




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