ほかげ (2023年)

少年映画評価 テーマは戦争の清算。少年映画ではないかも...
作品総合評価 画面の緊張感がとてつもない。暗いが素晴らしい。
少年の出番 100%少年目線で進行します。
お薦めポイント 塚尾桜雅君の視線の強さ。キネマ旬報新人賞は納得。
映画情報など 2023年国内公開。DVD等未発売。
写真は塚尾桜雅君。


2023年ヴェネチア国際映画祭でNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞したというニュースを見て、youtubeで予告編をみたら幼い少年の厳しい視線に圧倒されました。私の事情で劇場公開期間に鑑賞できなかったのですが、2024年3月になって大阪のミニシアターでやっと鑑賞できました。

youtubeの映画予告編より。

戦後すぐの東京。焼け残った居酒屋に女(趣里)がいた。時々(夜の)客を取って暮していた。店に復員兵(河野宏紀)と幼い少年(塚尾桜雅)が転がり込んで束の間の擬似家族。しかし精神を病んだ復員兵は追い出され、女も悪性の病気(たぶん梅毒)に罹り、少年に出て行けと言った。

その後、少年は別の復員兵の男(森山未來)に雇われた。少年は拾った拳銃を持っており、男はそれを使って元上官に復讐。仕事が終わった少年は女の店に戻ったが、女は会ってくれない。生きるんだよ。拳銃なんか置いていけ。これがお別れの言葉。店を出た直後。銃声が1発。少年が残した拳銃。女は...


塚本監督作品では『野火』をみましたが、その壮烈な描写は本作でも感じられました。焼け残った家で暮す未亡人。親のない浮浪児。身体や精神に重い障害を負った復員兵。日の当たらない場末の片隅で生きていくために売春、盗み、暴力。本作の主人公たちは特別ではなく、どこにでもいたのでしょう。

最初にやってきた復員兵は元小学校教師。なぜか小学2年生の算数の教科書を持っていました。それを少年にあげました。少年は目を輝かせて(ホンマカイナ)算数の勉強。女は亡くなった夫と子供の影を感じて3人で親子ごっこ。しかし外で大きな音が聞こえると、復員兵は戦場の記憶がフラッシュバックして狂ったように暴れ回る。女と少年は復員兵を追い出すしかありませんでした。

浮浪児の少年。どこで暮していたのか。両親はどうしたのか。何も語られません。ただ死体が握っていた拳銃を拾って肌身離さずお守りのように持っています。そして生きていくために盗みを繰り返し、時には暴力も受けて、少々血が出たって平気な様子。

上官に復讐する復員兵。片腕が不自由とはいえ何故少年を雇ったのでしょう。少年の拳銃を奪って一人でやった方が簡単なはずです。でも復員兵は少年を連れて歩きます。自分のすることを誰かに見届けて欲しかったのでしょうか。少年だって逃げようと思えば逃れたはず。男に魅入られたようについていく。

趣里さん、森山未來さんの鬼気迫る熱演は夢に出てきそうでした。しかし何といっても塚尾桜雅君の目。これが小学1年生の子とは思えない迫真の表情。映画の中では少年の顔が何度も何度もアップになります。塚本監督作品でこれだけ少年が登場するとは思いませんでした。

たった8歳でキネマ旬報新人男優賞を受賞。これからこの受賞が重荷にならないよう、じっくりと少年俳優、青年俳優、そして男優へと羽ばたいて欲しい。そう切に願います。


居酒屋に忍び込んだ少年。手にはカッパラってきた瓜を持って。
ここへ来れば優しくしてくれる、そんな噂があった。(但し、お金を持った夜の相手として)


最初は少年を追い出そうとしたが、亡き子の面影をみたのか「ずっと一緒にいるんだよ」


少年は男に雇われた。どこへ行くのか判らない。何日か野宿をした。
少年のカバンには拳銃。男はそれを使って上官に復讐するのだった...


ラストシーン。ガード下の廃墟には廃人となった復員兵たちがいた。
少年は貰った算数の教科書を、そっと目の前に置いて立ち去った。



※後記
小学2年生の算数の教科書。教科省の表紙は横書きですが、今と同じように左から右へ。戦前の横書きは右から左へ書かれているものかと思っていました。

本作を鑑賞したのは大阪にあるミニシアター。その2階にある倉庫を改造したような別室の小さなシアター。ネットで最前列の席を予約したのですが、シートの足は短く切られていて高さ20cmくらい。限りなく座椅子に近いものでした。スクリーンと壁までは1mくらい。

座高の高い私の頭は後の人の視界を遮るのではと思い、できるだけ頭を沈めました。右のイラストのような状態。膝は伸ばせずくの字形ままで、お尻は床に着きそうでしたが堪えました。膝がつりそうで困りました。これもいい思い出になればいいのですが。





▼イーストエンド劇場へ戻る   ▼第2部トップへ戻る