銀の海 (1971年)

初回放送・製作 1971年04月25日・TBS系列
作品評価 B+
お薦めポイント 北海度の雪の山奥。幼い少年は雪の精のように...
関連情報など 日曜劇場枠で放送。日本映画専門chで放送
(写真は川瀬裕之君)


TBSの看板番組である日曜劇場枠で放送された作品。前回取り上げた『にっぽんのパパ(1970年)と同じく北海道放送(HBC)製作。2020年に日本映画専門chで再放送されました。小品かもしれませんが、当時の製作者や俳優さんの力量が感じられる作品です。

行方不明になったジュンを見つけた。赤いスキーを抱いたまま倒れていた。
このスキーは息子の遺品。男はスキーを山に返すつもりだったが、ジュンはそれを拾ってくれたのだった。

北海道の雪深い山小屋。東京からスキー映画を専門に撮るカメラマンの男(長門裕之)がやってきた。山小屋には老人(加藤嘉)と幼い少年ジュン(川瀬裕之)の2人だけ。ジュンは東京の人間が珍しいのか撮影について回る。ちょっとしたアクシデントがありジュンが行方不明。男が見つけ出して事なきを得た。

男は1年前に事故で息子を亡くしていた。ジュンと同い年くらいだった。思い出さないよう最初はジュンと距離を取っていたが、ジュンを助けてからは堰を切ったようにジュンを可愛がり始めた。なんとジュンは学校にも行っていない。男は思い切って老人に言った。ジュンを下さい。老人は自分たちの悲劇の過去を話し始めた...

 まだ戦争の記憶や傷跡が残る時代...

1971年といえば大阪万博も終り、札幌五輪の前年。もう進歩と調和の時代だと思っていましたが、まだまだ戦争や被害の記憶は現役でした。ジュンの祖父である老人の話は本当に凄惨です。

戦前。北海道の貧しい暮しから脱却するため、老人は妻と娘(ジュンの母)を連れて樺太の炭鉱へ。終戦時にソ連軍が侵攻。妻は老人と娘の目の前で強姦されて殺害。命からがら娘と2人で北海道へ帰還。苦しい暮しの中で娘が妊娠。父親は誰か判らない(不特定多数の男に...されていた)

それが元で娘は気が狂い瘋癲病院に入ったまま。老人はジュンを連れて山へ逃げ出し自殺するつもりだった。でも何の罪もないジュンをみると死ねなかった。ここから男に向かって、俺はもう長くはない。ジュンの事を考えると、お前さんにジュンを渡した方が....(いやぁ凄い話です...)

 妖精か天使のような...

父は誰か判らない強姦魔かも。母は白痴(当時の用語)。そんな2人から生まれたジュンは全く汚れの無い少年。純粋無垢。見知らぬカメラマンの男に対しても疑うことなく近づいていきます。演じた川瀬裕之君。セリフはたどたどしいものの、澄んだ目がキラキラと印象的でした。

一方で長門裕之さん演じるカメラマンの男。この男に感情移入が出来ないのです。男が海外撮影中に息子がガス中毒死。その時に妻が不在だっだと聞いてキレまくり。全ての責任を妻に押し付ける最低の男。

それでもジュンに対する時は魅力的なおじさん。夜の部屋でジュンを抱きながら、目を閉じてごらん。まわりは雪の海。そしてスキーで滑っていく。雪煙をあげて....ジュンは本当だ!おじさんが滑っている姿が見える。ロマンチックな2人。

山小屋は老人とジュンの2人だけ。
今日はお客さんが来る!
待ちきれないジュンは迎えに
(映画『シェーン』を思い出す)
東京から来た男を珍しげに...
(男はジュンと目を合わさない)


亡き息子のスキーを抱いたジュン
男の頭の中には...
息子。一緒にスキーをした事は、
結局一度も無かった...
その夜から山小屋でジュンを離さない
(老人は面白くなかった)


目を閉じてごらん。想像するんだ。
美しい雪の山。滑走するスキー
男が東京に帰る日が近づいた。
おじさん。本当に行っちゃうの?
別れの日。おじさ〜ん!
(やっぱり『シェーン』ですなぁ)
(でも男はジュンを引取る事に)



※後記
子役の川瀬裕之君。実はすごい子役なのです。本作前年には巨匠の黒澤明監督『どですかでん』で乞食の息子役。黒澤監督からかなり目をかけられたとか。本作品後もゴジラシリーズに子役として出演されています。





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