敗れざるもの (1964年)

少年映画評価 死。悩みながらも凛とした少年の姿に涙。
作品総合評価 決して安易な「お涙頂戴」ではない。まだ幼い少年が、人生とは何かを教えてくれる。
少年の出番 ほぼ100%(石原裕次郎さんに一歩も引けを取らず)
お薦めポイント 死を悟りながらも凛とした少年の眼差し
映画情報など 1964年公開/DVD発売中。写真は小倉一郎さん。


東京オリンピックの年に製作された社会派ドラマ。不治の病の冒される少年や少女を描いた作品は、数多くありますが、その先駆けに近い映画でしょうか。石原裕次郎さんがこんな作品に出ていたとは意外かもしれません。なお正式なタイトルは、前に「小さき闘い」よりがつきますが、ここでは省略しています。

(追記)元は3部に入れていましたが、2025年になってスカパー(チャンネルNECO)でハイビジョン版を鑑賞。自分も年を取り、というものが身近になった現在、この主人公の少年の生き方に感じるものが多々ありました。もちろん甘い部分もありますが、素晴らしい作品だと思い、1部に昇格させました。皆様も是非ご覧になって下さい。

映画も終盤。少年(小倉一郎)は自分の死が近いことを知っていた。それを見守る運転手の橋本(石原裕次郎)

大富豪の高村家に運転手として雇われた橋本鉄哉(石原裕次郎)が主役。高村家の長男、俊夫(小倉一郎)は天体観測が趣味の中学生。

ある日、天体観測中の俊夫が「望遠鏡の隅が曇っている」というが、橋本が見るとどうもない。そのうち物にぶつかるなど視野が狭くなっているようだ。心配した橋本は高村夫妻に告げ、俊夫を病院に連れて行くよう勧める。

心配した通り、俊夫は脳腫瘍と診断され、大手術を受ける。しかし当時の医学では不治の病。毎日、お見舞に行く橋本に、俊夫は「君が僕の病気を発見してくれたんだね」と親愛の情を示すようになる。しかし退院、再手術と続く闘いの中で、自分が治らない事を知り、ぽつんと橋本につぶやく。

橋本は衝撃を受けた。この少年は自分の死を知りながら、逃げもせず、愚痴すら言わず、まっすぐ前を見つめて生きている。その日以来、橋本は仕事の合間を縫って、俊夫の残り短い人生を少しでも充実させるように、色々な所に連れて行き、話をしてあげる。

そんな中で、橋本の昔の仲間が、高村夫妻に過去の過ちを告げ口する。高村夫妻は橋本を解雇しようとするが、俊夫が必死に反対して留めてくれた。しかし、俊夫の命も限界だった。


あの大スター・石原裕次郎さんを前にして、全く互角以上に堂々と演じた少年俳優。きりっと凛々しい顔に、澄みきった天使のようなボーイソプラノ。彼が小倉一郎さんでした。

小倉一郎さんと言っても、最近の方は知らないかもしれません。現在でも色々な映画やドラマに端役として出演されておられますが、小心者で貧相な中年男が定番となっているようです。30年くらい前のTVドラマ「俺たちの朝」が当たり役だったようですが、やっぱり情けない男だったようです。

少年俳優と成人してからの小倉さんは別人物、というか、映画は映画の世界で閉じて鑑賞することです。それにしても、石原裕次郎さんと2人だけのシーンは、本当にジーンときます。唱歌「星の世界」を見事なボーイソプラノで歌うシーンは今も思い出します。(唄は「北の星座」だったかも。)

(追記)この歌のシーン。実は小倉一郎君と一緒に石原裕次郎さんも歌っているのです。ボーイソプラノとバスのデュエット。これは貴重なシーンですよ。

「死を前にして、何を考えるのか」こんなテーマが伏線にあったのかもしれません。少年の純粋な態度に比べ、大人の中には死の恐怖から、仲間を売ったり、逃げてしまったり、取り乱したりした人も多かったのでしょう。そんな弱い人への皮肉が込められていたのかも。(私自身は、人間は弱いのが本性なのだから、それを必要以上に責めたくはありませんけど。)

本作品は、残念ながらビデオも廃盤となっていますが、地方のUHF局やスカパーなんかで放送されるケースもあると思いますので、機会があれば是非ご覧下さい。私もテレビで3回くらい観ました。石原裕次郎特集か何かでDVD化される事を切望しています。

(追記)上でも書きましたが、石原裕次郎シアターコレクション59号としてDVDが発売されています。またスカパーやWOWOWでも放送がありました。

「天体望遠鏡の接眼レンズの右が曇っている、橋本君、拭いてよ」「坊ちゃん、曇ってないですよ」
これが脳腫瘍の症状(視野欠損)だったとは。なお少年は運転手を君付けで呼ぶ。

少年は入院して緊急手術をする事に。病気を見つけてくれた橋本君に手を差し出す。
(小倉一郎君は本当に頭を剃った。当時の子役はこれくらい当たり前?)

手術が終わって退院してきた少年。でも顔色は冴えない。


住込み運転手の部屋へ行って将棋を指す二人。少年は強かったが、やはり目がおかしい。
(少年は中学2年生。夏は中学生でも家では半ズボンが当たり前だった)

「僕、知ってるんだ」「看護婦が話してるのを聞いたんだ」
両親や姉にも言えない。運転手だけに話した。運転手は少年を抱き寄せる。

もう学校へ行くことはない。少年は運転手に頼んで学校へ連れてきて貰った。
運転手を先生に見立てて学校ごっこ。その後、二人で歌を歌った。

ついに最後の時。両親や姉へのお別れの言葉の後、最後は運転手を見つめる。
「ハ、シ、モ、ト」そう言いかけて息を引き取った。運転手の目に一筋の涙。(裕次郎さんの涙は貴重)



※後記
石原裕次郎さん演じる橋本は、決して品行方正な善人ではありません。元はヤクザで人を殺めたこともあったようです。今は更生して少年のいる家に住込みの運転手として奉公。少年には十朱幸代さん演じる姉がいますが、普通なら姉さんと色恋になるところ、本作では女気全くなし。今でいうBLの要素があるのかも。いやそれはないでしょうけれど。




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