| お薦めポイント | 記憶喪失になった少年の可愛さとしたたかさ。 |
| 少年の出番 | 準主役です。主役は杏さんが演じる母親。 |
| 映画情報など | 2024年製作。BD/DVD発売中。 写真は中須翔真君。 |
2024年、私の中では大ブレイクした少年俳優である中須翔真君の準主演作品。北國浩二氏の小説を映画化。ただ原作ではもっと少年の比重が大きいらしいのですが、映画では杏さんと奥田瑛二さんに比重が傾いたのが残念。それでも中須翔真君の存在は光っていました。
友人の運転する車が少年と接触。千紗子は思わず駆け寄って、早く救急車を！絵本作家の千紗子(杏)が実家に戻った。認知症になった1人暮しの父を介護するため。しかし父への愛は無い。早く施設に入れるのが目的。ある夜、友人の車で帰宅中に少年(中須翔真)に接触。助け起こした少年の身体に無数の虐待跡。とりあえず千紗子は少年を自宅に連れて帰った。翌朝、少年は目を覚ましたが記憶が全く無いと言う。
千紗子は幼い息子を亡くしたトラウマがあり､少年に特別な感情を抱く。少年が川で行方不明とのニュースをみた千紗子。この記憶喪失の少年を息子にしようと衝動的に決心。タクミと名付ける。千紗子、父、タクミの3人は家族の時間を過ごす。しかし破局はすぐに訪れた。少年の父がやってきて1億円出せと脅す。修羅場の中でタクミは父を刺した。千紗子はタクミから刃物を取り上げて止めを刺した...やがて裁判が始まる。
本作をみてすぐに思い出したのは、同じに2024年に鑑賞した『52ヘルツのクジラたち』と、2023年のカンヌ映画祭パルムドール受賞作『落下の解剖学』。前者は少年に関わる部分は本作とほぼ同じプロットです。後者は裁判における少年の発言という意味で。
本作の少年も、52ヘルツのクジラの少年も虐待を受けています。そして少年には記憶喪失、失語症というハンデがあるのですが、肉親でもない女性から深い深い母親の愛を甘受します。なにか実社会にもこういう女性が多いのでしょうか。映画や小説の中だけでしょうか。
一方で実の母は息子や娘が邪魔なだけ。本作では鬼畜の所業。少年は足首をロープで縛られ、橋の上から川へ落とされます。警察の調べに対し、少年が自らバンジージャンプで飛び込んだと証言。川に流されてそのまま死んでしまえ。これはまさしく松本清張『鬼畜』の世界です。
杏さん演じる千紗子は、川での捜索状況(発見が絶望)と、何かの会員勧誘を装って(ニュースでみた)少年の両親のアパートへ。少年への愛情が全く無い事を確認。よしこれで少年を自分の息子に出来ると判断。一見冷静な行動力に見えて、狂気に取り憑かれたとしか思えません。
中須翔真君演じる少年も純真にみえてしたたか。記憶喪失は嘘。両親のいる地獄に戻るくらいなら、この優しい女性の家にいたい。そのためには女性はもちろん、認知症で騒ぐ女性の父に対しても、好かれたい。愛されたい。そんな戦略があったのでしょう。もちろん少年が優しい性格だったことは確かですけれど。
そして最後に疑問が生じるのが裁判。裁判の証言台でいきなり告白しますか。警察の取り調べ。何度もあったはずの弁護士や関係者の事情聴取。そこでは一切告白せず、全てを女性のせいにしておきながら、裁判当日に意見を翻す。そのプロセスが全くなし。雑な脚本にしか思えません。『落下の解剖学』を勉強して下さい。中須翔真君が素晴らしいだけに最後は辛口になってしまいました。
目を覚ました少年。記憶は無いと言う。千紗子の気持ちは揺れていた。死んだ息子を思い出して。
千紗子の父は認知症。千紗子は父に辛く当たる。まるで虐待もどき。
しかし少年はこの老人に寄り添う。自分と同じ弱い立場の人間に親しみを感じたのか...
千紗子の友人の息子とも仲良くなった。救急車を呼ばなかった、あの友人だ。
擬似家族の幸せは突然終わった。少年の父親がやってきたのだ。
裁判の参考人として証言する少年。それまで黙っていた事実を告白。周囲は騒然。※後記
本作とは全く関係ありませんが、Netflixで鑑賞した幻想SFドラマ『ダーク』。ドイツ版『ストレンジャーシングス』のようで後を引く作品。そのシーズン1。ミッケルという11歳の少年が2019年から1986年にタイムスリップ。怪我をして運ばれた病院で、33年前と知って大混乱で失語症状態に。しかし担当の看護婦(当時呼称)がミッケルの世話をするうちにミッケルから離れられなくなり、児童施設送りを拒否して看護婦が引き取ります。そして後に結婚。いや33年前の人間と結婚して子供が出来たら...パラドックスの世界。女性と少年の関係はドイツも同じでしょうか。