最後の命なんてタイトルだけを聞くと、時代劇のような感じです。実際にみると、邦画では久々に、重いテーマの作品でした。「誰も知らない」の柳楽優弥さん主演作品で、話題になるかと思ったのですが、上映館は全国でもほんの僅か。こういう作品を見る人がもっと増えて欲しいのですけれど。
映画では、主人公の青年、桂人(柳楽優弥さん)の、現在(25歳)、高校生時代、小学生時代の3つのエピソードが、複雑に交叉しながらストーリーが展開します。それを書くのは少し面倒ですので、時系列に軽くまとめて紹介します。
小学生の桂人(土師野隆之介君)と、裕一(板垣李光人君)は親友だった。ある夜、裕一が家出するというので、桂人もつき合って家を抜け出した。秘密基地にしていた廃工場に行くと、衝撃的な事件に遭遇してしまった。二人の知り合いで、仲の良かったホームレスの女性が、同じホームレス達から輪姦され、そのまま強殺される。
家出は中止。しかし警察には何も言えなかった。これが二人の人生の大きな枷(かせ)になっていく。やがて高校生になった二人。事件の重りは二人の心から消えないが、その方向性が桂人と裕一では、対照的になってきた。桂人は襲われた女性の意識が、裕一は襲ったホームレスの欲情が、それぞれの心を支配していく。
高校卒業後、二人は別の道を進み、会う事はなくなった。25歳の桂人は、まだ学生(大学院生?)だが、恋人は出来ても肉体関係は持てない。あのホームレスの女性の叫び声が聞こえてくるのだ。性欲はデリヘル(知らない? 性欲処理をしにきてくれる商売の女性ですよ)で処理していた。(学生なのに金持ちなんですね)
そんな時、桂人の部屋でデリヘルの女性が殺される事件が起きた。当然、桂人に嫌疑がかかったが、捜査の結果、強姦魔として指名手配されている男の犯行と判った。その男とは、裕一(矢野聖人さん)だった。いったいどうして。
二人の男が、少年時代に受けた衝撃を共有し、それを慰め合い、しかし時が経つにつれ二人の思考が異なりはじめ、互いに「あいつがいなかったら」と思うようになる。しかし最後は、まるでホモ・セクシャルのような関係に。
相手役を演じた矢野聖人さん。経歴はよく知りませんが、やはり、はまり役でした。少しセリフが浮くような部分もありましたが、柳楽さんとの相性は抜群。何よりも驚いたのが、子役を演じた板垣李光人君と本当によく似ていること。そのまま大人になったリアル感が良かったですね。
しかし暗い話です。最後は少し明かりが見えたのか、それとも、もっと重い枷を背負ってしまったのか。考えさせられる作品です。エンターテイメント性は薄いかもしれませんが、こんな作品を見て考えてくれる人が多い方が、いい社会になるのでは(少し大げさですか)。
一方、裕一を演じた板垣李光人君。予告編をみた時は女の子にしか見えませんでした。かなり美形です。先ほども書きましたが、成長した役の矢野聖人さんと本当によく似ています。少年時代の二人のシーンがもっとあれば、少年映画としても評価できたのですが、こればかりは原作があるので仕方ありません。
皆様も是非映画館で、もしくはDVDが出たらご覧になって下さい。たまにはこんな文芸的な作品もいいものですよ。私も原作者の中村文則さんの小説を読んでみたくなりました。芥川賞作家なんですね。実はよく知りませんでした。