製作年・国 |
1961・ポーランド |
少年映画評価 |
A- |
お薦めポイント |
侵略されたポーランドの少年少女たちの眼。 |
映画情報など |
国内未公開。海外版DVDあり。 (写真は2話のエドヴァルド・ミンサー君) |
タイトルは出征証明書(ポーランド語の原題はSwiadectwo urodzenia)。ポーランドでは多くの古いフィルムがデジタル処理で鮮明化されてDVD化されているそうです。本作はその一つ。
第2次大戦で侵略を受けたポーランド。少年少女の目を通して戦争が描かれた3つの短編。ストーリーはシンプルですが、どの作品も尋常ではない緊張感に満ち溢れています。今の時代。こんな作品こそ、平和国家を標榜する日本で発売して欲しい、切に思います。
少年と兵士は東へ逃避行。すでにドイツ軍の攻撃で廃墟となった家で食料を探す...
■ON THE ROAD
1939年、ドイツがポーランドに侵攻直後。ワルシャワから避難する幼い少年(ヘンリク・フリニエヴィツ)は家族とはぐれた。同じく所属部隊からはぐれた兵士の馬車に乗せて貰い、東へ逃げる。しかしドイツは電撃作戦であっという間に侵攻。兵士は少年に逃げろと命じ、たった一人でドイツ軍に向かう。最後に少年が見たものは...
■LETTER FROM THE CAMP
ドイツはポーランドを占領。ポーランド兵は全員捕虜に。軍人だった父の帰りを待つ12歳の少年(エドヴァルド・ミンサー)は母と2人の弟の4人暮し。収容所の父から手紙が届き安心する。しかしある夜、近くの収容所で銃声が響いた。翌朝、収容所には誰もいない。少年はその光景を見て動けなくなった。
■A DROP OF BLOOD
占領下のポーランドでユダヤ人狩りが激化。孤児になったユダヤ人少女(ベアタ・バルシュチェフスカ)はユダヤ支援者の医師に助けられ、ポーランド人として施設に入所。しかし施設にゲシュタポがやってきて入所者を調査。少女はユダヤ人とバレた。しかし少女は毅然とした態度でゲシュタポを見つめる...
3遍ともストーリーはシンプルです。もう悲劇に向かって話が進んでいくのが判るのです。たとえ英語字幕が読めなかったとしても、空気が固まっていくのが判るのです。そして最後の悲劇。その直前で映画は終わります。悲劇そのものは描かれません。それが却ってショック。
1話目のON THE ROAD。ドイツ機甲部隊に対してポーランド軍は馬車ですからね。兵士と幼い少年の逃避行。1989年の仏映画『フランスの友だち』の原点かもしれません。最後に逃げた幼い少年は無事だったのでしょうか。いやたぶん...
2話目のLETTER FROM THE CAMP。キャンプといえば楽しそうですが捕虜収容所。ドイツが迫害したのはユダヤ人だけでなくポーランド兵も同じ。父は軍人でも将校。12歳の長男に笑顔はありません。次男と三男は父のブーツを毎日磨いて待っています。
ある日1人のポーランド兵が脱走して家にやってきました。兵士はやつれて靴もはいていません。少年は父の事を思い出して優しく接します。なけなしの食事を与え、弟たちが毎日磨いていたブーツを差し出します。兵士は少年に頭を下げて出ていきました。でもおそらく兵士は生きていけないでしょう。
3話目のA DROP OF BLOOD。これはユダヤ人少女の話。彼女が医師に言った言葉「もう生きていけません。毒薬を下さい」たった10歳の少女ですよ。そしてタイトルは1滴の血。この血の意味が不気味です。血筋とか子孫とか、そんな意味も込めているのかもしれません。
とにかく少年少女たちの目が凄い。刃物で切られるような鋭い空気感。こんな映画をみてしまうと、フランスなど西欧で数多く作られたユダヤ人悲劇の映画がお気楽に思えてきます。
1話 ON THE ROADより。家族とはぐれた少年。
ただドイツとは反対の東へ逃げるしかなかった。
1話 ON THE ROADより。兵士と道連れになった。
このポーランド兵士も部隊からはぐれてしまった。
1話 ON THE ROADより。書類を燃やす兵士。
その火で暖を取る少年。短いズボンが寒々しい。
1話 ON THE ROADより。ラストシーン。
ドイツ軍と遭遇。兵士の最後をみた...
2話 LETTER FROM THE CAMPより。ラストシーン。
朝起きると、近くの捕虜収容所が無人。捕虜の兵士は処分された。少年の父も...
2話 LETTER FROM THE CAMPより。
父の帰りを待つ少年の目は厳しい。
2話 LETTER FROM THE CAMPより。
次男、三男に父からの手紙を読む少年。
2話 LETTER FROM THE CAMPより。
父のブーツを毎日磨く次男。父が恋しい。
2話 LETTER FROM THE CAMPより。
長男が美少年なのが、なぜか悲しい。
3話 A DROP OF BLOODより。
ユダヤ人少女。彼女の目もまた厳しい。
3話 A DROP OF BLOODより。
たった10歳なのに。人生に疲れ果てて...
※後記
本作に登場する少年少女たちの目。日本映画ではとてもお目にかかれない。そう思っていましたが、強いていえば大島渚監督の『少年』に登場する当たり屋の少年でしょうか。映画ではありませんが、長崎原爆の被害者を撮影した「焼き場に立つ少年」 死んだ弟を背負った少年の目。
もう一つ。1961年ですからポーランド映画にソ連批判は無いようです。しかしポーランド兵を虐殺したのはソ連軍も同じ。しかもそれをドイツのせいにしていた、というからタチが悪い。