君は海を見たか (1982年)

初回放送・製作 1982年10月15日・フジテレビ系列にて全11回
作品評価
お薦めポイント よくある不治の病の少年物語.倉本聰の実力を再確認
関連情報など 2018年に日本映画専門chで放送
(写真は六浦誠君.素晴らしい演技)


倉本聰氏の脚本で1970年にテレビドラマ化、1971年に映画化され、1982年に再度ドラマ化されました。不治の病で夭折する少年という手垢のついたようなお話ですが、倉本聰氏にとってはチャレンジしたい何かあったに違いありません。

この1982年版ドラマは、かすかに見た記憶があったのですが再放送もなく残念に思っていたところ、2018年になって日本映画専門チャンネルで放送してくれました。映画1本分を11回なので水増しでダレるかなと思ってたのですが、全話とも涙、涙で鑑賞。萩原健一さんと六浦誠君の演技が本当に素晴らしい。

(※本作はハイビジョンにアップコンバートしての放送。でも原盤が低解像度のビデオ作品ですので見かけだけ。)

最終11話のラスト近く。心の底から父を信じることができた。その鬼気迫るような眼差し

海洋ゼネコン研究所の主任技師である増子(萩原健一)は妻を事故で亡くし、一人息子の正一(六浦誠)の世話は同居している妹の弓子(伊藤蘭)に任せていた。増子は研究所のエース的存在であり沖縄の海中公園建設工事の実質的リーダーを任されている。しかし弓子もまもなく結婚を控えており、増子も再婚相手が決まっていた。

正一描いた真っ黒な海の絵を担任教師が心配した。また人の気を引くために平気でウソをつく事も問題だった。そんな正一がお腹がはれていると言い、弓子が医者へ連れていくと大学病院に回され検査入院。父の増子は仕事優先でなかなか面会に来ない。やっと医者との面会で告げられた事は手術をしても3ヶ月程度の命...

呆然とする増子。仕事に没頭している時だけが全てを忘れられる。しかし事情を知った上司が増子を海中公園プロジェクトから外し閑職へ追いやった「今は息子の事だけを考えろ」増子は新居、再婚、民間治療法など試行錯誤を繰り返しながらも正一に向き合う。正一は幼いながらも恋をし失恋する。短い一生を燃え上がらせるように。そして最後、海の色はどう見えたのか...

 父子の真剣勝負。鳥肌が立つほどの演技...

萩原健一さんは当時31,2歳。役柄の主任技師と同じく1番脂がのりきった年代です。素晴らしい演技を見せた映画「誘拐報道」も同じ年の作品。ちょっと突っ張った若者だったのが、その肩に責任という文字が乗っかかり始めた年代。日本を背負うような最前線で活躍する年代。

そして六浦誠君。フジテレビ系列でビッグマンモス末期の一員でしたが、本作で少年俳優として脚光を浴びました。ただ可愛いだけでけなく裏に何か持っている表情は天性のものかもしれません。この後は倉本作品はじめドラマにも数多く出演。そして1986年のNHKドラマ「少年」がその集大成ではと思います。

本作もパッと見ただけでは単なる「仕事一途の父親」と「わがまま息子」でしかありません。でも人間を信じるとは何か、それをこの二人が真剣勝負で追求しているのです。本当に父を、息子を信じることが出来た。その演技に涙が止まりませんでした。(私が年を食って涙腺が弱くなったこともありますけれど)

反則技もあります。父が息子にお前の将来を語る場面。まず中学に行ってサッカー部に入る、高校は、大学は、そして20歳になると俺とバーへ行く。こりゃ泣かせにかかってますなあ。それと息子が書いた谷川俊太郎の詩「生きる」これも反則ですわ...

女優陣では何と言っても元キャンディーズの伊藤蘭さん。彼女の存在にどれだけ助けられたことか。なお蛇足ですが、萩原健一さんは本作以降、麻薬や事故などのスキャンダルまみれ。日本を代表する名俳優になれる実力の持ち主なのに本当に残念。六浦誠さんも早くに俳優を引退。それだけに本作が光ります。

正一が描いたのは真っ黒に塗り潰された海
お腹がはれている。検査を受けた。
(今からすぐに大学病院へ行って下さい)

 80年代初めの日本の風景

1980年代初めの東京郊外の風景。高度成長が続く中でインフラ整備は追いつかず。駅舎も粗末、私鉄電車も古臭く冷房なんて殆どありません。自動改札もなし。そして喫煙天国。本作でも出てくる人物は全てタバコ。医師だって患者の前でタバコをスパスパ。六浦君など子供がライターで火を点けるシーンも多々。

次に気になる言葉がハカセ。偉い医師を「○○ハカセ」。この時代の博士号は権威絶大だった。その後は学術政策もあり博士は粗製乱造。特に理系大学では運転免許と同じで単なる資格でしかありません。博士は増えてもポストは減っていますので、今や「○○教授」と呼ばれる事が権威。

いろいろありますが、本作のような良質なドラマは是非ともDVD-BOXで発売して欲しいものです。ブルーレイの方がいいのですが、原盤がビデオですのでこれは仕方ありません。

長い入院と手術が終り退院して自宅へ戻った正一
(この退院。実は病気が治ったのではなく...)
パパも少し優しくなった
(でもまだ僕の事を完全には信じていない...)

父の友人の妹洋子にオイルを塗る正一
(年の差なんて。正一は恋の奴隷になりました)
喫茶店で洋子が盗んだ灰皿を隠せと言われて
(この時代の少年。チャックを開けて隠すのは定番)

灰皿泥棒が父にバレちゃいました
(そして洋子への恋もはかなく...)
手術後の定期検診では問題ないと言われたが
(でも父は焦り出した。次々と民間療法を...)

父の設計した沖縄の海中展望塔へやってきた
沖縄の海でボートを楽しむ正一
(この日の夜、正一は担任の先生に手紙と海の絵を送った)

新居完成。正一の部屋はヨットのキャビン風
(正一の設計図通り。父の胸で涙が止まらない)
みんなの願いも虚しく遺影になった正一
(谷川俊太郎の詩「生きる」が被ります。ズルイ...)



(おまけ。時限公開)本ドラマに出てきた1982年頃の東京と大阪郊外の駅舎。まだまだ粗末ですなあ...

西武池袋線 富士見台駅
(主人公が住む団地がある設定でしょうか)
JR東海道線(当時は国鉄) 千里丘駅
(焦った父が病気の権威を頼って大阪までやってきた)
(白い巨塔の阪大医学部や国立循環器病センターかな...)





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