菊次郎の夏 (1999年)

少年映画評価 8点
作品総合評価 7点
少年の出番 100%(主役)
お薦めポイント 泣く正男少年の肩をそっと抱く北野武。
映画情報など 1999年公開/DVD発売中


北野武監督作品で、ほぼ唯一の少年映画。久石譲氏のテーマ音楽は非常に有名ですが、まさかこの映画の主題曲だったとは。そんな作品を改めてDVDで鑑賞しました。

■ストーリー

小学3年生の正男(関口雄介君)は、祖母と2人暮らし。父ちゃんはいないが、母ちゃんは事情があって、遠くで働いているという。夏休み。写真でしか見た事のない母ちゃんに会うため、正男は一人で出かけることにした。

しかし、ひょんな事から、近所のヤクザ(北野武さん)が一緒に同行することになってしまった。正男にとってはいい迷惑。でもヤクザのおじさんには何も言えない。ただ黙ってついていくだけ。こうして、正男少年とヤクザのおじさんの、可笑しなロードムービーが始まった。

まずは旅行どころか、行ったのは競輪場。正男のデタラメ番号で一度は大穴を当てたが、あとはお決まりのスッテンテン。腹を立てたヤクザは、正男を犬のように店の前に立たせたまま、一人居酒屋で焼け酒。酔ったヤクザが店を出ると正男がいない。変質者に連れられて公園のトイレで、パンツを脱がされる寸前、ヤクザが見つけた。

そんなこんな珍騒動を続けながら、ようやく母のいる住所へたどり着いた。そこには、写真で見たままの母がいたが、知らない男性と可愛い女の子が一緒。幸せそうな3人を見て、正男は踵を返すしかなかった。うなだれて涙を拭く正男に、ヤクザは何もできない。そっと肩を抱くだけだった。

ここからヤクザが爆裂。正男を元気づけるため、道連れの男たちを巻き込んで、ナンセンス、シュールなお遊びを続けながら東京へ帰っていく。正男もヤクザのおじさんの心が判った。やがてお別れの時がきた。初めて正男がヤクザに聞いた。「おじさんの名前は?」「バカヤロウ!菊次郎だよ」


母と会うのをあきらめ、そっと泣く正男。小さな肩が切ない
■ナンセンスの中から滲み出るリアル

ストーリーは、1986年の「哀しい気分でジョーク」とほぼ同じです。しかしこれは正統派の「お涙頂戴」でしたが、北野監督は、そうではなく、自らのナンセンスワールドの中で表現したものです。

主役の正男を演じた関口雄介君。はっきり言って、子役やタレントとは全く縁の無いような容貌です。だからと言って、セリフや演技がずば抜けて上手いかというと、それも感じられません。しかしそれがリアルなのです。

一番感じたのは、母を訪ねるシーン。せっかく遠くからやって来たのに、声すらかけれない。美人の母には夫と娘がいた。優等生的な見解なら「ここで自分が声をかけると、母の幸せな家庭の邪魔になる」と思って、幼いながらも正男は身を引いたと解釈するでしょう。でもそんな事、あり得ないと思うのです。

正男にとっては、見知らぬ男もそうですが、何より自分のライバルとなる娘が気になったのではないでしょうか。超可愛い女の子でした。正男は自分がそんなに可愛くない事を判っているのでしょう。勝負にならないので、そっと泣くしかありません。

でも正男が美少年だったら、この「もの哀しさ」は表現できません。うそ臭くなってしまいます。他のナンセンスや悪ノリシーンはさておいて、ここがこの映画の一番のキモですから、北野監督は配役にリアルを求めたのではないかと思っています。(また捻くれた考えで申し訳ありません。私自身も子供時代から、ご面相についてはコンプレックスを持っておりましたので。どうしてもっとカッコ良い顔に生んでくれなかったのかと)

海外版DVDパッケージから
(デザインセンスが違うなあ)
■ふざけ過ぎの映画なのに、どうして心に残るのか

ここまで正男を演じたた関口雄介君のことを「可愛くない」と言い続けてきましたが、本心ではありません。映画の後半には、正男少年が愛しくて切なくてたまらなくなってきます。

常にうつむいて、心の内側を見せず、じっと我慢している。そんな性格が可愛いのです。実際には小学3年生ともなれば、結構口も達者で、心も荒んだ子もいるものですので、正男のような性格は架空のものかもしれません。

もう一人の主演の北野武さん。彼の演技はいつもと同じです。本作品では表に出しませんが、やはりバイオレンス系の人間であることも伺えます。でも子供には優しい。とにかく優しい。そして自分も子供のままである。それが彼の魅力なのだろうと思います。

最後に、やはり久石譲さんのテーマ曲。これは本当に素晴らしい。映画の中で、ちょっと間が空いて、白けそうになった時、絶妙のタイミングでテーマ曲が流れます。そういう意味で音楽に助けられた面も非常に大きいと感じました。

既に何回か鑑賞された皆様も、時々本作品を見て下さい。どこか心が癒されます。できればお金を貯めて、DVDを購入されたらと思います。あの「天使の鈴」もどこかで入手できないものでしょうか。


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