サバカン SABAKAN (2022年)
少年映画評価 |
S |
作品総合評価 |
A+ |
少年の出番 |
ほぼ100% |
お薦めポイント |
少年二人の友情と別れ。ごく普通の話なのに大感動。 |
映画情報など |
2022年公開。BD/DVD等未発売 (写真は主役の原田琥之佑君と番家一路君) |
公開前から気になっていました。長崎県を舞台にした少年二人の友情。またローカル映画枠で細々と上映されるのかと思っていたら、結構メジャー系列で公開。元SMAPの草なぎ剛さんも出演。草なぎさんにはコアなファンがついていますので、ある程度の集客が見込めるとの戦略かもしれません。
そんなことは置いといて。映画の出来が本当に素晴らしい。夏休みの冒険。と言ったって怪物や宇宙人が出て来る訳でもなく、不思議な国に迷い込む訳でもありません。普通の生活。これがじわじわと心に染み込んできます。
3時間かけて山の頂上に登った。ここからの景色は絶景だった。
1986年。長崎の山あいの町で暮すヒサ(番家一路)はごく普通の小学生。夏休み。ちょっとした事がきっかけでクラスの変り者のタケ(原田琥之佑)とブーメラン島へイルカを見に行く。自転車で二人乗りして山を越え、坂を下る。転倒して自転車は大破。不良にも襲われるが、何とか海岸へ。二人は泳ぐ。ヒサは脚がつってピンチ。
女子高生が助けてくれた。でも結局イルカはいなかった。その後も二人は毎日一緒に遊んだ。父のいないタケだったが、ヒサにサバ缶を使った寿司をご馳走。おいしかー。しかしタケの母が事故死。タケは親戚に引き取られる事になった。別れの日、ヒサはサバ缶を持って駅へ行く。またねっ またね。涙があふれる。
映画は大人になったヒサ(草なぎ剛)が少年時代を回想する形で始まります。そして全編にわたってナレーションを務めます。草なぎさんのナレーションは非常に聞き取りやすく、時折入るテロップも的確で、小学生でも十分理解できると思います。
ヒサは久田。タケは竹本。違いにヒサちゃん、タケちゃんと呼び合います。小学生も高学年になると下の名前で呼ばれるのは子供っぽくて嫌になり、苗字で呼んで欲しくなります。苗字の一部にちゃん付けされるのは抵抗が無かった。この辺り私も「あるある」と納得していました。
映画はヒサちゃんの目線で進みます。両親役が竹原ピストルさんと尾野真千子さん。この二人の怪演が素晴らしい。しじゅう喧嘩してはお下品な言葉のオンパレード。言葉だけでなく頭をバシッと叩くのも凄い迫力。でも昨今のDVとは180度違って暖かいものが溢れています。弟役は番家一路君の実弟。出番は少ないけれどいい味出していました。
ヒサ役の番家一路君。セリフが方言のため、自然なのか不自然なのか判りませんが、私は自然に聞こえました。そして顔芸(表情)が素晴らしい。不良に絡まれて、◯ん◯を見せろを迫られた時の何とも言えない表情がリアルでおかしくて。(タケちゃんに助けられてパンツ脱がなくてすんだ時のホッとした顔も)
タケ役の原田琥之佑君。ヒサに対しては常に上から目線。大人や不良たちにも物怖じせず。でも父がいない寂しさをふっと見せる瞬間があり、キュンときました。故・原田芳雄さんのお孫さんとの事でルックスも声もよくて、何よりスタイル抜群(死語?)。一人だけハーフパンツ姿でしたが脚の長さに見惚れました。
その他、二人を助けてくれた女子高生、カッコいいお兄さん。みかん畑のオヤジ。大人の出演者も素晴らしいのです。もちろんツッコミどころもいくつかありますが、丁寧に丁寧に作られた作品でした。
タケちゃんは変な子だった。
友だちはいない。いつも魚の絵を描いていた。
タケちゃんは夏も冬も同じ粗末な服。
それをクラスの悪ガキが囃し立てる。
悪ガキといっしょにタケちゃんの家を見に行った。
廃墟のような家。みんな笑ったがヒサは笑わなかった。
君を自転車の後に乗せて、坂を下っていく。
♪ゆっくり、ゆっくり...ではなく猛スピードで
(ピンクの自転車。不良が因縁。お前女か?見せろよ)
冒険の日。帰ってきた時には日が暮れていた。
またね! またね! タケちゃんは何度も繰返す。
ヒサちゃんだって。またね。またね。
この1日の事は一生忘れない...
※後記
イルカに対する少年たちの特別な思いって何でしょう。映画では昔のアニメ「海のトリトン」がほんの少し再放送。また城みちるの♪イルカに乗った少年なんて歌もありました。でもこれらは1972年頃のヒット。ちょうど私が少年時代。本作の少年たちには古過ぎるかも。
海辺を走る島原鉄道。鉄道ファンには人気の路線。列車での別れのシーン。古今東西の作品で数多くありました。大半は男女の別れなのですが、少年同士の別れもいいじゃないですか。邦画では『少年時代』のラストも名シーンでした。そんな島原鉄道も廃線が相次いでいるそうです。何とか残って欲しい。切なる希望です。