ぼくのお日さま (2024年)

少年映画評価 少年映画としては満点に近い。
作品総合評価 もう一人の主役である少女の描き方は適切か...
少年の出番 ほぼ100%。
お薦めポイント とにかく少年少女のスケートシーンが美しい。
映画情報など 2024年国内公開。DVD等未発売。
写真は越山敬達君。


2019年の『僕はイエス様が嫌い』で海外の新人監督賞を受賞するなど注目の奥山大史監督作品。2024年のカンヌ映画祭「ある視点部門」に選出。残念ながら受賞には届きませんでしたが、結構、話題にはなりました。国内公開の初日に映画館で鑑賞。思った以上の出来で、余韻に浸りながら帰宅したのですが...

今回はかなりの長文ですし、ネタバレがありますので、これからご鑑賞される方はお読みにならない方がいいかと思います。

凍った湖でアイスダンス練習後の休息。心地よい疲れと幸福感。このまま永遠に続いて欲しい...
(映画プログラムより)

北海道に住む小学生のタクヤ(越山敬達)。夏は野球、冬はアイスホッケーをやっているが、どちらも無気力で落ちこぼれ。小6最後の冬、同じリンクでフィギュアを練習している少女サクラ(中西希亜良)を見て一目惚れ。自分もあんな風に滑りたいとフィギュアの真似事を始めた。それを見ていたサクラの専属コーチ荒川(池松壮亮)。

荒川は元男子フィギュアの有名選手。タクヤの熱意をみて、つい無料で指導を始めてしまう。やがてサクラとタクヤでアイスダンスに取り組む事を提案。サクラも受け入れた。こうして3人だけの練習が始まる。リンクで、凍った湖の上で。淡い光の中で滑る3人。この幸せな時間がずっと続いて欲しい。

破局は突然。サクラは荒川の秘密をみてしまった。それまで抱いていた荒川への信頼と恋心が消えた。サクラは荒川コーチに冷たい言葉を投げつける。気持ちワルィ。そして大切なアイスダンスのバッジテスト(技能検定)の日。サクラは来なかった。タクヤがみた夢はここで終わる。


上のテーブルにも書きましたが、少年映画としては出来過ぎの満点。主演の越山敬達君はEBiDANでも人気者(男性ファンも多い)。一方で演技なんて出来るのか不安。ちょうど旧ジャニーズJr.と同じような属性でした。それが難しい吃音まじりのセリフも、表情も、スケートも素晴らしい。

文句なく第1部に上げようと思っていたのですが、ネットでは一部とはいえ厳しい批判や酷評がありました。どの作品にも必ずある嫌がらせかと思ったのですが、そうでないものも感じました。奥山大史監督は是枝裕和監督と近い関係なので、政治的視点もあるかもしれません。(最終的には1部に入れました)

しかしもっと純粋な少女俳優ファンの方の思いかもしれません。ちょうど私が衝撃を受けた2004年の『HINOKIO』と逆の構図。誰もが羨む超美少女のサクラをコケにした。レストランでめったにない極上のステーキを出しながら、シェフは、たこ焼き(スミマセン)をメインディッシュに選んだ...

 少女サクラ

フィギュアで世界を目指す少女。母親は元有名選手の荒川を専属コーチにつける。イケメンで的確な指導ぶりは、同じスケートを習う少女たちからも憧れの存在。そんな荒川を独占するサクラも鼻高々。荒川への恋心が芽生えるのも当然です。荒川がどこかの野良猫みたいなタクヤを指導しても、アイスダンス転向の話にも疑いを抱きません。

ある日スーパーの駐車場で荒川の車を見つけます。サクラは笑顔で駆け寄ろうとしますが、荒川の隣に若い男性。2人は1本のアイスクリームを食べています。本作の時代背景はガラケーの頃。今のように同性婚とかLGBTが一般的では無い時代とはいえ、サクラは敏感に察知してしまいました。

そうなると、これまでの事は全て合点が行きます。荒川がタクヤに優しいこと。自分ではなくタクヤが目当てなんだ。バッジテストを無断欠席。母親は荒川を解雇。もう娘には近づかないで下さい。ただ他の人に「荒川はゲイだ」と言い触らさないのが救い。あんな少年に負けたなどとプライドが許さなかったからかもしれませんが。

しかしこのままではサクラが嫌な少女のまま。事件の後、サクラが一人でフィギュアを滑るシーンを全部挿入。美しいスケーティングでしたが、これが彼女への配慮でしょうか。荒川コーチとの和解につながる何かを入れて欲しかった(↓後記参照)。タクトとの和解はラストカットでその一部が見えました。

演じた中西希亜良さん。日本人離れした美少女。スタイル。アイスダンス。日英仏のトリリンガル。本作ではセリフは少なめでしたが、表情も豊か。彼女は世界で活躍する女優さんになるかもしれません。

 荒川コーチ

北海道では若い男性と同居。最初は親戚なのか友人の部屋に転がり込んだと思ったのですが、映画の中盤から二人の関係が徐々に明らかになってきます。令和の今は珍しくありませんが男性同士の同棲。もちろん結婚とかそんなものには縛られず、解雇された荒川は結局、恋人男性とも北海道ともお別れ。

コーチとして誠実に緊張感を持ってサクラを指導。生徒という意味でサクラを愛していたと思います。ただタクトが現れて、時々緊張の糸が緩みます。2人を公平にと言っても、どうしても下手なタクトに手を取られますし、スキンシップもタクトの方が長い。そして決定的なミス。タクヤがここまで出来るようになったのはサクラのおかげと言ってしまった。タクトの指導がメインだと言っているようなもの。

サクラの母親に解雇されてからの事は描かれていませんが、その時点でタクヤの指導も終わったのでしょう。北海道を去る日にタクヤと会います。少しキャッチボールをしますが、あの出来事の話もなくお別れ。二人でもうちょっと思いを語って欲しかったけれど、これは観客に委ねたようです。

演じた池松壮亮さん。もう何も言うことはありません。『鉄人28号実写版』の頃からのファンです。いい俳優になりました。どの役を演じていても頼りになるお兄さん。越山敬達君、中西希亜良さんの二人は本当に良い先輩俳優と共演できたと思います。

 少年タクト

とにかく純粋な少年。ただ吃音があるため、学校でも少し距離を置かれて友人は殆どいません。ホッケーではキーパー。どうやら誰もやりたくないポジション。小学生とは言えシュートされたパックは高速。それをお腹に受けて悶絶(最初は◯◯◯マに当たったのかと)。いずれにせよやる気なし。

サクラを見た時に心に火がつきます。もちろんサクラがメインですが、フィギュアにも心惹かれたのでしょう。あんな風に滑ってみたい。荒川から靴を借ります。フィギュアの靴ってサイズ関係ないのでしょうか。荒川と最後に会った日「く、靴を返さなきゃ」「あれはあげるよ」「あ、ありがとう」このなんでも無い短い会話が心に残ります。

サクラと違ってタクヤは鈍感。きっと荒川がゲイであること、荒川が自分の事を好きと思っているかどうかなんて発想は無かったのでしょう。バッジテストの日。サクラが来なかったのは自分のせいだと思い込む。荒川も本当の事を言えない。なんとも悲しいシーン。

越山敬達君は撮影当時14歳との事。小6を演じるには少し年齢が高過ぎるのではと思いましたが、声は小学生そのもの。表情も無垢で可愛い。もちろん年齢なりのシャープな表情もありましたけれど。少年俳優としてはこれからが壁。お仕事の無い期間をどうやって越えていくのか。


夏は野球チームに所属。あまりやる気が起きない。
(映画プログラムより)
サクラとタクト。ぎこちなく寄り添うふたり。
(映画プログラムより)


だんだんと二人の息が合ってきた。日本一になれるかも。楽しい時間だ。
(映画予告編より)


リンクの休憩所でカップ麺を食べる3人。足は無意識にステップを踏む。息ぴったりの3人。
(映画予告編より)


タクトのアップ。少年の美しい一瞬。(もちろんサクラの美しいアップも数知れず)
(映画プログラムより)


おまけ。映画上映前のマナー。3人に加え、潤浩君演じるコウセイも登場。監督の心遣いです。
(タクトの唯一の親友。「ビリー・エリオット」で言えば、タクトはビリー、コウセイはマイケル)


番外編。カンヌでの3人。お揃いのサングラス。
(映画プログラムより)
番外編。カンヌでおちゃらけるタクト。太ももが眩しい
(映画プログラムより)



※後記
サクラは「気持ちワルっ」の一言だけで終了。なんとか荒川コーチとの和解の光だけでも描いて欲しかった、と書きました。じゃあどうしたら良かったのか。月並みですが、サクラの母親を悪者にするしかありません。

荒川コーチのゲイカップルを目撃したのはサクラでなく母親。あんな不潔な男に大事な娘サクラを任せられないわ。サクラは母に言われるままにバッジテストをキャンセル。コーチの解約にも同意。しかし春が来て、これで良かったのかしら、という思いにとらわれ、コーチに会いに行きます。あの時間のお礼だけでも。コーチはゲイかもしれないけれど、3人で過ごしたあの時間は本物だったと....(甘いですかねぇ。)

話は変わりまして、本作品のプログラム1000円。サイズは小さいのですが、内容の充実ぶりが素晴らしい。主役3人のエピソードやコメントが満載。もちろん写真も。これは絶対に買いですよ。私は2冊買ってしまいました。





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